サクセッションプランニングとは|後継者育成計画の進め方

サクセッションプランニングとは|後継者育成計画の進め方

サクセッションプランニング(後継者育成計画)とは、経営トップや事業を左右する重要ポジションの後継者を、計画的に選び・育てる取り組みです。「今の経営陣が退いた後、誰が事業を担うのか」に、具体的な名前と育成計画で答えられる企業はまだ多くありません。この記事では、進め方を6つのステップで整理し、後継者候補の選び方、タレントプールの作り方、育成の方法、よくある失敗、中小企業が無理なく始める手順までをまとめて解説します。

サクセッションプランニングとは:意味と事業承継との違い

サクセッションプランニング(succession planning)とは、経営トップやキーポジションに交代が生じても事業が滞らないよう、後継者候補を計画的に見極め、育成し、適切なタイミングで登用する一連の取り組みです。日本語では「後継者計画」「後継者育成計画」と訳され、策定された計画そのものを「サクセッションプラン」と呼ぶこともあります。実務上はほぼ同じ意味で使われますが、一度作って終わる文書ではなく、定期的に回し続けるプロセスである点を強調する場合に「プランニング」という言葉が選ばれます。

経済産業省の「指名委員会・報酬委員会及び後継者計画の活用に関する指針」(CGSガイドライン別冊、2022年)は、後継者計画を「選定(そのための見極め)」と「育成」という大きく二つの要素に分けて整理しています。誰を選ぶかと、選ばれる水準まで育てることを、並行して進める仕組みだということです。

対象は社長だけではない

サクセッションプランニングの中心は社長・CEOの後継ですが、実務では、事業部長や工場長、主要顧客を担う営業責任者、財務責任者など、空席になると事業に大きな影響が出る「キーポジション」も対象に含めるのが一般的です。社長の後継を考えるほど、その下の層が育っていなければ候補者そのものが生まれないため、複数の階層をつなげて設計することが重要になります。

事業承継との違い

事業承継が、経営権・株式・事業用資産・取引関係などを次の代へ引き継ぐこと全般を指すのに対し、サクセッションプランニングはその中の「経営を担う人材を選び、育てる」部分に焦点を当てた取り組みです。親族内承継、社内の役員・従業員への承継、外部からの招聘のいずれであっても、経営を担える人材を準備しておく必要がある点は共通しています。

なぜ今サクセッションプランニングが求められるのか

後継者不在率は改善傾向でも約半数

帝国データバンクの全国「後継者不在率」動向調査(2025年)によれば、後継者が「いない」または「未定」の企業の割合は50.1%で、前年から2.0ポイント低下し、7年連続で改善しました。一方で、企業規模別では大企業の24.9%に対し、中小企業は51.2%、小規模企業は57.3%と、規模が小さいほど後継者の準備が進んでいない実態が示されています。

同調査では、承継の形も変わりつつあります。2025年(速報値)に代表者交代を行った企業では、血縁によらない役員・社員を登用する「内部昇格」が36.1%となり、「同族承継」の32.3%を上回りました。また、後継者候補の属性では「非同族」が41.0%と初めて4割を超えています。社内から経営人材を育てて登用するケースが増えるほど、誰をどう育てるかという計画の重要性は高まります。

後継者は「決めれば終わり」ではありません。同調査では、前年に後継者候補がいたにもかかわらず翌年に不在となった「計画中止・取りやめ」も一定数見られます。候補者を1人に絞り切らず、複数の候補を育て続ける設計が、計画の頓挫に対する備えになります。

上場企業ではガバナンスの要請に

東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)は、原則4-3(1)で、取締役会に対し「CEOの後継者計画(サクセッションプラン)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成及び資質を備えたCEOの選任が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである」と求めています。経営トップの交代を、属人的な判断ではなく、時間をかけた計画的なプロセスとして扱うことが求められているといえます。

人的資本経営の観点からも同じ方向性が示されています。経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」(2022年5月)は、経営戦略と人材戦略を連動させる取り組みの一つに「サクセッションプランの具体的プログラム化」を挙げ、経営者としての潜在能力が高い20・30代の社員を早期に選抜し、厳しいミッションに挑戦する機会を準備することを提言しています。

サクセッションプランニングの進め方:6つのステップ

CGSガイドライン別冊は、社長・CEOの後継者計画について「ロードマップの立案」から「指名後のサポート」までの7つの基本ステップを示しています。ここではその考え方を参考に、キーポジションを含めて中堅・中小企業でも使いやすい6つのステップに整理します。

  1. 対象ポジションを特定する:経営戦略の実行に欠かせず、空席になると影響が大きいポジションを洗い出す
  2. 求める人材像と評価基準を定める:経営理念と中長期の戦略から、役割・能力・経験・価値観を言語化する
  3. 後継者候補を選び、タレントプールをつくる:実績とポテンシャルの両面から、複数名の候補を選ぶ
  4. 一人ひとりの育成計画を立てて実行する:人材像とのギャップを埋める配置・任務・研修を設計する
  5. 定期的に評価し、候補を入れ替える:半年〜1年ごとに進捗を確認し、候補と計画を見直す
  6. 緊急時の代行者を決めておく:不測の事態に備え、短期的に職務を担う人と引き継ぎ手順を定める

ステップ1・2:ポジションと人材像を先に決める

最初に「誰を」ではなく「どのポジションに、どんな人が必要か」を決めます。現職者の人物像をそのまま要件にすると、これからの経営環境に必要な能力が抜け落ちがちです。3〜5年先の戦略を実行するうえで求められる役割を起点に、求める経験(たとえば事業の損益責任を持った経験)、能力、価値観を書き出します。CGSガイドライン別冊も、「あるべき社長・CEO像」は将来の経営環境や経営戦略等に応じて変化し得ると指摘しています。

ステップ5・6:見直しと緊急時の備え

候補者の成長度合いや本人の意向、事業環境は年ごとに変わります。評価の場を定例化し、候補の追加・入れ替えをためらわないことが計画を生きたものにします。評価方法としては、本人との面談、上司・同僚・部下からの360度評価、適性検査などが用いられ、客観性を担保するために外部の専門家を活用する企業もあります。あわせて、経営者の急病など想定外の交代に備え、職務を一時的に代行する人と、重要な取引先・金融機関・権限の引き継ぎ手順を決めておくと、中長期の計画とは別の安全網になります。

後継者候補の選び方とタレントプールの作り方

候補選びでよくある誤りが、「いま最も業績の高い人」をそのまま次期リーダーと見なすことです。現在の成果と、より大きな役割を担えるポテンシャル(将来の伸びしろ)は必ずしも一致しません。

実績とポテンシャルの2軸で見る

タレントマネジメントでは、社員を「パフォーマンス(現在の成果)」と「ポテンシャル(将来の伸びしろ)」の2軸で捉える「ナインボックス(9ボックス)」がよく使われます。それぞれを高・中・低の3段階に分けて9つの領域に人材を位置づけ、後継者候補や重点育成の対象を可視化する方法です。ポテンシャルを見る観点としては、新しい状況から素早く学び行動を変える力(ラーニングアジリティ)、視野の広さ、周囲を巻き込む力などが重視されます。過去の成功体験だけでなく、未知の課題にどう向き合うかを見ることで、成果上位者に埋もれがちな候補を見つけやすくなります。

1人に絞らず「タレントプール」を持つ

タレントプールとは、将来の重要ポジションを担う可能性がある人材の候補群のことです。候補を1人に絞り込むと、辞退や退職、環境変化で計画がすぐに止まってしまいます。複数の候補を育てておけば、計画の継続性が高まるだけでなく、組織全体のリーダー層の底上げにもつながります。CGSガイドライン別冊でも、指名委員会が個別に把握・評価できる候補者の規模は「数名から数十名程度」とされ、さらに若手の段階(30〜40代)から有望な人材を早期に選抜し、入れ替えながら時間をかけて育成する取り組みが、後継者計画の実効性を高める基盤として挙げられています。

後継者育成の方法:経験・研修・対話を組み合わせる

経営人材は、研修だけで育つものではありません。実際に責任ある仕事を任される経験、体系的な知識のインプット、経験を振り返り意味づける対話を組み合わせて設計することが欠かせません。

タフアサインメントと戦略的ローテーション

CGSガイドライン別冊は、企業で取り組まれている育成方法の例として、事業部門を超えた戦略的なローテーション、タフ・アサインメントによって修羅場を乗り越える経験をさせること、社外取締役との1対1の面談や外部専門家によるコーチングで気付きを与えることを挙げています。新規事業の立ち上げ、不振部門の立て直し、グループ会社の経営、部門横断プロジェクトの責任者などは、損益と人の両方に責任を持つ経験として有効です。

社内教育と社外教育

中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」は、後継者教育を社内教育と社外教育の組み合わせで計画的に行うことを勧めています。社内では、営業・製造・総務・財務・労務などを一通り経験するローテーションや、経営企画など経営の中枢を担わせることが挙げられています。社外では、他社での勤務経験を積むことと、セミナーや後継者塾、教育機関などで体系的に学ぶことの二つの方法が示されています。

現経営者との対話を仕組みにする

数字の読み方や重要な意思決定の勘所といった暗黙知は、現経営者のそばで判断の過程を共有することで伝わる部分が大きいものです。経営会議への陪席、意思決定の背景を説明する定期的な1on1、主要な取引先や金融機関への同行などを、育成計画の中に予定として組み込んでおくと、多忙を理由に後回しにされにくくなります。

中小企業でサクセッションプランニングを始める手順

専任の人事部門や高機能なシステムがなくても、サクセッションプランニングは始められます。事業承継ガイドライン(第3版)は、後継者を決めてから承継が完了するまでの移行期間(育成期間を含む)について、3年以上を要する割合が半数を上回り、10年以上を要する割合も少なくないとしたうえで、平均引退年齢が70歳前後であることを踏まえ、概ね60歳頃には準備に着手することが望ましいとしています。

育成には年単位の時間がかかります。中小企業庁の「経営者のための事業承継マニュアル」(2017年)も、事業承継には5年から10年かかるとして、早期の着手を呼びかけています。交代時期が見えていない段階こそ、始めどきです。
  1. 経営者自身が交代の目安時期を決め、そこから逆算して準備期間を見積もる
  2. 社長と、空席になると困るポジションを2〜3つ書き出す
  3. それぞれに求める役割・経験・能力を、経営陣の言葉で3〜5項目に言語化する
  4. 候補になり得る人材を実績とポテンシャルの2軸で一覧にし、経営陣で共有する
  5. 候補との面談で本人の意向とキャリアの方向性をすり合わせ、1年分の育成計画(配置・任務・研修)を決める
  6. 半年〜1年ごとに進捗と候補を見直し、必要に応じて外部の支援を活用する

親族内承継や株式の移転が絡む場合は、税制や法務の要件が個別に異なります。人材の選定・育成と並行して、税理士・弁護士や事業承継・引継ぎ支援センターなどの専門機関に相談しながら進めることをおすすめします。

サクセッションプランニングでよくある失敗と注意点

候補者情報は機微な人事情報です。CGSガイドライン別冊も、後継者計画の関連資料は機密性の高い情報を含むため厳重な情報管理が求められるとしています。誰がどこまで閲覧できるか、本人にどの段階で何を伝えるかを、あらかじめ決めておきましょう。

重要なのは、完璧な制度をいきなり整えることではなく、「誰を・どう育てるか」を経営の定例議題に乗せ、継続的に回し始めることです。着手が早いほど、候補の選択肢も育成に使える時間も広がります。

この記事のまとめ

  • サクセッションプランニングは、経営トップやキーポジションの後継者を計画的に見極め・育成し、交代があっても事業が続く体制をつくる継続的なプロセス。
  • 後継者不在率は2025年に50.1%まで改善したが、中小企業は51.2%、小規模企業は57.3%と高く、内部昇格による承継の増加で社内育成の重要性が増している。
  • 進め方は「対象ポジション特定→人材像と評価基準→候補選出とタレントプール→育成計画→定期評価と入れ替え→緊急時の備え」の6ステップ。
  • 候補は実績とポテンシャルの2軸で複数名を選び、タフアサインメント・社内外の教育・現経営者との対話を組み合わせて年単位で育てる。

よくある質問

サクセッションプランニングとサクセッションプランの違いは何ですか?

実務上はほぼ同じ意味で使われます。どちらも後継者を計画的に選び育てる取り組みを指し、日本語では後継者計画や後継者育成計画と訳されます。策定された計画そのものをサクセッションプラン、それを定期的に見直しながら回し続けるプロセスを強調する場合にサクセッションプランニングと呼ぶことが多い程度の違いです。

サクセッションプランニングの対象は社長だけですか?

社長・CEOの後継が中心ですが、事業部長や財務責任者、主要顧客を担う責任者など、空席になると事業への影響が大きいキーポジションも対象に含めるのが一般的です。下の層の人材が育っていなければ社長の後継者候補も生まれないため、複数の階層をつなげて設計することが重要です。

後継者の育成にはどのくらいの期間が必要ですか?

中小企業庁の事業承継ガイドライン(第3版)は、後継者を決めてから承継完了までの移行期間(育成期間を含む)について、3年以上を要する割合が半数を上回り、10年以上を要する割合も少なくないとしています。平均引退年齢が70歳前後であることから、概ね60歳頃には準備に着手することが望ましいとされています。

後継者候補は1人に絞るべきですか?

1人に絞らず、複数名の候補群(タレントプール)を持つことが推奨されます。辞退や退職、事業環境の変化が起きても計画が止まらず、候補同士の成長やリーダー層全体の底上げにもつながるためです。半年から1年ごとに評価し、候補の追加や入れ替えを行います。

中小企業は何から始めればよいですか?

まず経営者自身が交代の目安時期を決め、そこから逆算して準備期間を見積もります。次に、社長と空席になると困るポジションを2〜3つ選び、求める役割・経験・能力を言語化したうえで、候補者を実績とポテンシャルの2軸で一覧にします。そのうえで候補との面談を行い、1年分の育成計画から始めるのが現実的です。

後継者に求める人材像の言語化や、候補者の見極め、経験と研修を組み合わせた育成計画の設計は、社内だけで進めると思い込みや遠慮が入りやすい領域です。ノアブリッジは組織開発・人材開発・研修の支援を行っています。自社に合った進め方を整理したい方は、お気軽にご相談ください。

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参考文献

  1. 帝国データバンク|全国「後継者不在率」動向調査(2025年)
  2. 東京証券取引所|コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)
  3. 経済産業省|指名委員会・報酬委員会及び後継者計画の活用に関する指針(CGSガイドライン別冊、2022年7月)
  4. 経済産業省|人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0)
  5. 中小企業庁|事業承継ガイドライン(第3版)
  6. 中小企業庁|経営者のための事業承継マニュアル(2017年3月)
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