研修の内製化と外部委託(外注)の判断基準:メリット・費用・進め方
研修を内製化するか外部委託(外注)するかは、テーマごとに「自社固有の内容か」「繰り返し実施するか」「社内に教えられる人がいるか」の3点で判断するのが基本です。自社固有・多頻度・担い手ありなら内製、専門性が高い・単発・担い手不足なら外部委託が向き、多くの企業では両者を組み合わせるのが現実的な答えになります。見積金額だけで「安いほう」を選ぶと、講師役の工数や現場に定着しないといった見えにくいコストが後から表面化します。本記事では、外部委託と内製化それぞれのメリット・デメリット、費用の考え方、判断チェックリスト、研修会社の選び方、内製化の進め方までを順に整理します。
研修の内製化・外部委託とは:まず実態を押さえる
研修の実施方法は、大きく「社内の人材が企画・教材づくり・講師を担う内製」と「研修会社や外部講師に企画・講師を委ねる外部委託(外注)」に分かれます。実務ではこの二択がきれいに分かれるわけではなく、企画は社内で行い講義だけを外部講師に依頼する、初回だけ外注して以降は内製化する、といった中間形が数多くあります。
厚生労働省の「令和6年度能力開発基本調査」(令和7年6月公表)でも、正社員に実施したOFF-JT(職場を離れて行う研修)の実施機関は「自社」が75.2%と最も高く、「民間教育訓練機関(民間教育研修会社、民間企業主催のセミナー等)」が42.0%で続きます(複数回答)。自社での研修を軸にしながら、必要に応じて外部の機関を併用している企業が多いことがうかがえます。
一方で、同調査では能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所が79.9%にのぼり、問題点の内訳は「指導する人材が不足している」(59.5%)が最も高く、「人材を育成しても辞めてしまう」(54.7%)、「人材育成を行う時間がない」(47.4%)と続いています。教えられる人と時間が社内に足りないという構造こそが、内製か外注かの判断を難しくしている根本的な理由です。
研修を外部委託(外注)するメリット・デメリット
外部委託のメリット
- 専門性と品質:体系化されたプログラムと登壇経験のある講師により、社内に知見が薄いテーマでも一定の品質を確保しやすい
- 客観性と新しい視点:他社事例や外部の考え方に触れることで、社内の常識を相対化するきっかけになる
- 社内工数の削減:企画・教材作成・運営を任せられるため、人事部門や講師役社員の負担を抑えられる
- 立ち上げの速さ:既存のプログラムを土台にできるため、新しいテーマでも短期間で実施しやすい
外部委託のデメリット
- 1回あたりの費用:講師料・企画料などの外部支出が実施のたびに発生し、多頻度の研修では総額が膨らみやすい
- 自社への適合:汎用的な内容のままだと自社の業務や文脈と噛み合わず「良い話だったが使えない」で終わりやすい
- ノウハウが残りにくい:設計の意図や教材が社内に蓄積されず、毎回委託先に依存する状態になりがち
- 調整の手間:課題の共有、内容のすり合わせ、日程調整など、委託先とのコミュニケーション工数がかかる
研修を内製化するメリット・デメリット
内製化のメリット
- 自社への密着度:自社の製品・業務手順・組織文化・現場の事例をそのまま教材にできる
- 繰り返すほど費用効率が上がる:一度教材を作れば、受講者が増えても追加の外部支出は小さい
- 柔軟な改善:現場の声や事業の変化に合わせて、内容をすぐに修正・更新できる
- 教える側の成長と定着:講師役の社員自身が学び直す機会になり、研修後も身近で相談に乗れるため現場での定着を後押しできる
内製化のデメリット
- 見えにくい人件費:講師役や事務局の準備・実施の工数が本来業務に上乗せされる
- 品質のばらつき:講師のスキルや経験に依存し、内容が我流や属人的なやり方に偏るおそれがある
- 視点の固定化:社内の常識の範囲にとどまり、新しい知見や他社の視点が入りにくい
- 立ち上げの負担:教材やカリキュラムをゼロから設計するには、相応の時間と設計スキルが必要になる
内製と外部委託を7つの観点で比較する
両者の特徴を、検討時に押さえたい観点ごとに並べると次のようになります。どちらが優れているかではなく、自社の状況でどの観点を重視するかを確認するために使ってください。
- 費用の出方:内製は社内工数(人件費)が中心で外部支出は小さい/外部委託は実施ごとに外部支出が発生する
- 向くテーマ:内製は自社固有の知識・業務手順・理念/外部委託は管理職・ハラスメント防止・専門スキルなど体系性が求められるテーマ
- 実施頻度:内製は毎年・多頻度の定例研修/外部委託は単発・不定期の研修
- 品質の安定:内製は講師次第でばらつく/外部委託は一定水準を確保しやすいが自社への適合度は調整次第
- 社内の負担:内製は講師役・事務局の負担が大きい/外部委託は調整工数のみで比較的小さい
- ノウハウの蓄積:内製は社内に残る/外部委託は契約で教材・設計意図の共有を取り決めない限り残りにくい
- 改善のしやすさ:内製はすぐに修正できる/外部委託は委託先との協議が必要
費用の考え方:見積額だけで比べない
研修の外注費用は、テーマ・形式・時間・人数・カスタマイズの程度によって大きく変わるため、一律の相場で比べることはおすすめしません。比較の際は、内製・外部委託それぞれの費用を内訳まで分解し、同じ土俵に並べることが重要です。
- 外部委託の主な費用:企画・設計費、講師料、教材費、カスタマイズ費、会場費・オンライン運営費、交通費など
- 内製の主な費用:講師役・事務局の準備と実施にかかる工数(人件費)、教材制作費、会場・機材費、講師役の育成費
- 両者に共通する費用:受講者が業務を離れる時間の人件費、研修後のフォローにかかる工数
参考として、前述の能力開発基本調査では、OFF-JTに費用を支出した企業における労働者一人当たりの平均額は1.5万円(令和5年度実績)とされています。これはあらゆる研修を平均した数値であり、個別の研修の見積もりの妥当性を判断する基準にはなりませんが、自社の育成投資の水準を振り返る材料にはなります。
費用面では公的支援の活用も検討に値します。厚生労働省の「人材開発支援助成金」は、雇用する労働者に職務に関連した訓練を計画に沿って実施した事業主に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。自社で企画する訓練、外部機関の講座のいずれも要件を満たせば対象になり得ますが、事前に訓練計画の届出が必要であり、コースや助成率、講師の要件などは見直されることがあります。活用を検討する際は、最新の要件を厚生労働省や都道府県労働局の情報で確認し、必要に応じて社会保険労務士などの専門家に相談してください。
内製か外部委託かを決める判断チェックリスト
実施を検討している研修テーマごとに、次の項目を確認します。「はい」が多いほど内製化、「いいえ」が多いほど外部委託に向いていると考えられます。
- 内容は自社の製品・業務手順・理念など、社内固有の知識が中心か
- 毎年、または年に複数回繰り返し実施する予定か
- 社内に、そのテーマを教えられる知見と意欲を持つ人材がいるか
- 講師役の準備・実施の工数を、業務として正式に確保できるか
- 教材やカリキュラムを設計できる人材、または設計の型が社内にあるか
- テーマの専門性や法令・最新動向への対応が、社内の知見で十分にまかなえるか
- 研修後に、学んだ内容を現場で反復・支援する体制を社内でつくれるか
チェックの結果が割れるテーマは、無理にどちらかに寄せる必要はありません。たとえば新入社員研修であれば、経営理念や社内ルールは内製し、ビジネスマナーや論理的思考などの汎用スキルは外部委託するといったように、研修の中でも単元ごとに分けて考えると判断しやすくなります。
外部委託先(研修会社)の選び方
外部委託を選ぶ場合、成果を左右するのは委託先の知名度よりも、自社の課題にどれだけ合わせてくれるかです。比較検討の際は次の点を確認するとよいでしょう。
- 課題のヒアリング:提案の前に、自社の課題・受講者像・現場で起きている問題を具体的に聞き取ってくれるか
- カスタマイズの範囲:事例・演習・ケースを自社向けに差し替えられるか、その範囲と費用はどうなっているか
- 講師との相性:実際に登壇する講師の経歴を確認でき、事前に打ち合わせや体験の機会があるか
- 効果測定と事後フォロー:研修後のアンケートや行動変容の確認、フォロー施策まで提案に含まれているか
- 内製化への協力姿勢:教材や進行台本の提供、社内講師の育成など、将来の内製化を視野に入れた支援が可能か
- 契約条件:教材の著作権や二次利用の範囲、キャンセル規定、オンライン実施の可否を事前に確認したか
研修を内製化する進め方とハイブリッド運用
内製化は一度に全てを切り替えるより、段階的に進めるほうが失敗が少なくなります。代表的な手順は次のとおりです。
- 研修体系を棚卸しする:現在実施している研修をテーマ・対象・頻度・費用の一覧にし、チェックリストで内製候補を選ぶ
- 目的と評価指標を決める:何ができるようになれば成功かを先に定め、内製・外注を問わず同じ基準で振り返れるようにする
- 講師役と事務局を任命する:教える意欲のある社員を選び、講師役の工数を業務として正式に割り当てる
- 教材と進行を標準化する:スライド・進行台本・演習の設計意図を文書化し、講師が替わっても同じ品質で実施できるようにする
- 試行して改善する:小規模で試行し、受講者アンケートと現場の上司の声をもとに内容を修正する
- 本格展開と定期見直し:定例化したうえで、年に一度は内容と体制を見直す
外部委託から内製へ移すハイブリッド運用
現実的な選択肢として有効なのが、外部の専門性と内製の強みを組み合わせるハイブリッド運用です。代表的なのは、初回は外部講師に登壇してもらいながら社内の講師候補が並走して型を学び、2回目以降を社内に移していく形です。
- 外注時に、講師資料・進行台本・演習の設計意図まで共有を受けられるよう、事前に契約で取り決める
- 初回から社内の講師候補を運営に参加させ、進行やファシリテーションを間近で学ぶ機会にする
- 専門性が高い単元や最新動向の部分は外部講師に残し、自社固有の単元を社内講師が担うなど役割を分ける
- 研修後のフォロー(職場での実践課題や上司との振り返り)は社内で担い、定着まで伴走する
どの方式を選んだ場合も、研修の評価は欠かせません。受講者の満足度だけでなく、理解度、職場での行動の変化、業務成果への影響まで段階的に確認するカークパトリックの4段階評価のような枠組みを使うと、内製と外部委託を同じ物差しで比べられ、翌年度の判断の精度も高まります。
研修の内製化か外部委託かは、コストという入口から入りつつも、最終的には「研修で何を実現したいか」という目的に立ち返って判断するテーマです。テーマごとに棚卸しをして最適な組み合わせを設計し、評価結果をもとに毎年見直していくことが、限られた育成予算を成果につなげる近道になります。
この記事のまとめ
- 研修の内製化・外部委託は費用だけで決めず、自社固有か・実施頻度・社内の担い手・現場への定着の観点でテーマごとに判断する
- 外部委託は専門性・客観性・工数削減に、内製化は自社への密着・多頻度でのコスト効率・ノウハウ蓄積に強みがある
- 費用は見積額ではなく、内訳と「1回あたり×回数」、社内工数まで含めて比較する。助成金は最新要件を一次情報で確認する
- 外注先は課題のヒアリング・カスタマイズ・事後フォロー・内製化への協力姿勢で選び、初回外注から段階的に内製へ移すハイブリッド運用が現実的
よくある質問
研修は内製と外部委託、どちらがコストを抑えられますか?
一概には言えません。毎年繰り返す研修は内製化するほど1回あたりの費用を抑えやすく、単発・専門的な研修は外部委託のほうが結果的に割安なことがあります。総額だけでなく「1回あたりの費用×実施回数」と、講師役・事務局の工数まで含めて比較することが重要です。
研修の外注費用の相場はどのくらいですか?
外注費用はテーマ、時間、人数、形式、カスタマイズの程度によって大きく変わるため、一律の相場で判断するのは難しいのが実情です。複数の委託先から、企画費・講師料・教材費・カスタマイズ費などの内訳が分かる見積もりを取り、同じ条件で比較することをおすすめします。
内製化に向いている研修と、外部委託に向いている研修は何ですか?
内製化に向くのは、自社の理念・製品知識・業務手順など社内固有の内容で、毎年繰り返し実施する研修です。外部委託に向くのは、管理職研修やハラスメント防止など専門性・体系性が求められるテーマ、社内に教えられる人がいないテーマ、単発の研修です。
研修の内製化は何から始めればよいですか?
まず現在の研修を一覧にして、頻度が高く自社固有の内容が多いテーマから内製候補を選びます。いきなり全てを内製にするより、初回は外部講師に依頼して社内の講師候補が並走し、2回目以降を社内に移す形が現実的です。講師役の工数は業務として正式に確保してください。
外部委託した研修が現場で活かされません。どうすればよいですか?
汎用プログラムをそのまま実施している可能性があります。委託先に自社の課題・受講者像・現場の具体的な問題を共有し、事例や演習を自社向けにカスタマイズしてもらいましょう。あわせて、研修後の実践課題や上司の関与など、現場での定着を促す仕組みを設計に含めることが効果を左右します。
研修の内製化に向けた設計や、外部委託と内製を組み合わせた研修体系づくりについてご相談がありましたら、当社の組織開発・人材開発のサービスページよりお気軽にお問い合わせください。
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