兼務情シス・ひとり情シスは何から始める?優先順位と資産管理の進め方
兼務情シス・ひとり情シスがまず取り組むべきは、「抱えている業務の棚卸し」と「IT資産管理の台帳づくり」の2つです。本記事では、そこから優先順位を決め、属人化を防ぎ、外部委託と自動化で手を空けるまでの手順を、台帳の項目例や省力化できる業務の例とあわせて整理します。「総務や経理の本業のかたわらでIT全般も見ている」「社内のシステムに詳しい人が一人しかいない」——専任の情報システム部門を置けない中小企業では、こうした体制は珍しくありません。日々の問い合わせ対応に追われ、記録はその人の頭の中だけ、という状態に不安を感じている経営者やご担当者に向けた、少人数でも運用を破綻させないための現実解です。
兼務情シス・ひとり情シスが生まれる背景
背景にあるのは、全国的なIT人材の不足です。総務省の「令和7年版 情報通信白書」によれば、デジタル化に関して日本企業が認識している課題のうち「人材不足」の回答割合が48.7%で最も大きくなっています。IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2025」でも、DXを推進する人材の「量」が不足していると回答した日本企業は8割を超え、米国・ドイツと比べて不足感が際立っていると報告されています。
また、経済産業省の委託調査「IT人材需給に関する調査」(2019年)では、IT人材の不足規模は2030年に最大で約79万人に拡大しうると試算されています(需要の伸びの前提によって幅があります)。数字は試算ですが、「人が採れないことを前提に、少人数でどう回すか」を考える必要がある点は、多くの中小企業に共通します。
「不在」「ひとり」「兼務」3つの類型
- 情シス不在型:専任も兼務も置かず、トラブルのたびに詳しい社員や取引先ベンダーに都度対応してもらう
- ひとり情シス型:IT全般を一人の担当者が専任または主担当として抱えている
- 兼務情シス型:総務・経理・経営企画などの担当者が本業と掛け持ちでIT運用を見ている
どの類型でも共通する弱点は、知識と作業が特定の一人(または社外の誰か)に集中し、その人が不在になった瞬間に業務が止まることです。加えて兼務情シスの場合は、本業の繁忙期にIT対応が後回しになり、更新作業や棚卸しが滞りやすいという事情も重なります。
何から手を付けるか:業務の棚卸しと優先順位づけ
限られた時間で成果を出すには、「全部をきちんとやる」のではなく、「止まると困る順」に手を付けることが重要です。次の手順で、抱えている業務を棚卸しし、優先順位を決めていきます。
- 業務を書き出す:問い合わせ対応、PCの準備・回収、アカウント発行・削除、更新作業、バックアップ確認、契約更新、ベンダー窓口など、IT関連の作業を2〜4週間ほど記録し、頻度とおおよその所要時間を一覧にする
- 影響度で分類する:「止まると事業が止まるもの」(基幹システム、メール、ネットワークなど)、「放置するとリスクが高まるもの」(更新、バックアップ、退職者アカウント)、「改善すると楽になるもの」(定型作業、問い合わせ)の3段階に分ける
- 自分しかできない作業に印を付ける:手順が文書化されておらず、担当者以外が対応できないものを洗い出す。ここが属人化の急所になる
- やり方を決める:各業務を「社内で続ける」「手順化して他の人にも分担する」「外部に委託する」「自動化・やめる」のいずれかに振り分ける
- 経営と合意する:優先順位と、対応しないこと・後回しにすることを経営層と共有し、兼務の場合は本業との時間配分もあわせて取り決める
IT資産管理:最低限押さえる台帳の項目
業務の棚卸しと並行して進めたいのが、IT資産管理です。何を持っているかが分からなければ、守ることも、ムダを見直すこともできません。最初から精緻な管理を目指す必要はなく、表計算ソフトの一覧でも十分です。最低限、次の項目を押さえておくと、トラブル対応や引き継ぎ、契約の見直しに役立ちます。
- ハードウェア:PC・スマートフォン・ネットワーク機器などの種類、管理番号、利用者、設置場所、購入(リース)日、保証・保守期限
- ソフトウェア・ライセンス:製品名、契約形態、ライセンス数、利用者、更新日
- クラウドサービス(SaaS):サービス名、契約者・管理者アカウント、利用部門、月額・年額費用、更新日、扱うデータの種類
- アカウントと権限:誰がどのシステムに、どの権限でアクセスできるか。退職・異動時に削除・変更すべきものを把握する
- 契約・連絡先:保守契約の内容、サポート窓口、契約期間、担当ベンダーの連絡先
IPAが公開する「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」には、付録として資産管理台帳のサンプルが用意されています。ゼロから様式を考えるより、公的なひな形を自社向けに簡略化して使うほうが早く、抜け漏れも防ぎやすくなります。台帳は作って終わりではなく、入社・退職や機器の入れ替えのタイミングで更新する運用ルールまで決めておくことが大切です。
属人化対策と外部委託の使い分け
手順書は「担当者以外がたどれるか」を基準にする
棚卸しで「自分しかできない」と印を付けた作業から、順に手順書にしていきます。完璧な文章である必要はなく、画面の写しと箇条書きで十分です。判断基準は、担当者が休んだときに他の社員がその手順書だけで対応できるかどうか。管理者パスワードや重要な設定情報は、個人のメモではなく、管理者を複数名にしたうえで社内で決めた方法で保管します。
社内に残す「判断」と、外に出す「作業」
外部委託を検討する際は、業務を「判断」と「作業」に切り分けると整理しやすくなります。日常の保守・監視、PCのセットアップ、ヘルプデスクの一次対応といった作業は、運用代行や保守サービスに任せやすい領域です。一方、どのシステムに投資するか、どの業務をどう変えるか、どこまでのリスクを許容するかといった判断は、社内に残すべきものです。すべてを丸投げすると、ノウハウも判断力も社内に蓄積せず、委託先の言いなりになりかねません。
自動化・省力化で手を空ける
少人数で回すには、定型作業を仕組みや道具に肩代わりさせ、人にしかできない判断に時間を振り向ける発想が欠かせません。たとえば次のような業務は、自動化・省力化の候補になりやすい領域です。
- OS・ソフトウェアの更新:自動更新の設定や、管理ツールによる一括適用で、1台ずつの手作業を減らす
- バックアップ:定時の自動バックアップを設定し、人は「正しく取れているか」「戻せるか」の確認に集中する
- アカウント管理:入社・退職時の作業をチェックリスト化し、可能なものは人事情報と連動させて発行・削除の漏れを防ぐ
- 問い合わせ対応:よくある質問をFAQにまとめ、受付窓口をフォームなどに一本化する。生成AIで回答のたたき台をつくる方法もある
- 資産管理の情報収集:PCの機種やソフトのバージョンを手入力で集めず、管理ツールで自動取得する
- 運用負荷そのものの削減:自社サーバーの保守に手がかかる領域は、クラウドサービスへの移行で運用作業自体を減らせる場合がある
ツールを選ぶ際は、機能の多さよりも「自社の担当者が無理なく運用し続けられるか」「サポート体制はどうか」を重視します。また、生成AIなど外部サービスに業務情報を入力する場合は、入力してよい情報の範囲を社内ルールとして定めておきましょう。
セキュリティの最低ラインを定例化する
更新・バックアップ・アクセス権の見直しといった基本対策は、担当者が多忙だと後回しになりがちです。中小企業も取引先を経由した攻撃の足がかりにされることがあり、規模を問わず最低限の備えが求められます。前述のIPAのガイドラインは2026年3月公開の第4.0版で、はじめに取り組む基本対策に「バックアップを取ろう!」を加えて「情報セキュリティ6か条」としています。月に一度、四半期に一度といった頻度で点検日を決め、台帳の更新とあわせて定例化すると、少ない工数でも抜け漏れを防げます。
兼務情シス・ひとり情シスは、必ずしも「遅れている状態」ではありません。棚卸し・資産管理・手順化という守りの土台を固め、外部委託と自動化で手を空ければ、少人数でも運用は回り、余力を業務改善やデータ活用といった攻めのDXへ振り向けられます。まずは自社の類型を確かめ、抱えている業務の書き出しから始めてみてください。
まとめ
この記事のまとめ
- IT人材不足を背景に、情シス不在・ひとり情シス・兼務情シスは中小企業で珍しくない。まず自社がどの類型かを把握する
- 何から始めるか迷ったら、業務の書き出し→影響度で分類→属人化の急所を特定→やり方を決める→経営と合意、の順で優先順位をつける
- IT資産管理は、ハードウェア・ライセンス・クラウドサービス・アカウントと権限・契約と連絡先を一覧化することから。公的なひな形の活用も有効
- 「判断」は社内に残し「作業」は外部委託、定型作業は自動化して手を空け、セキュリティの基本対策は定例化する
よくある質問
兼務情シス・ひとり情シスは、最初に何から手を付ければよいですか?
抱えているIT関連業務の書き出し(棚卸し)と、IT資産管理の台帳づくりの2つから始めるのがおすすめです。何をどれだけ抱えているか、何を持っているかが見えると、優先順位や外部委託・自動化の判断がしやすくなります。
IT資産管理台帳には、最低限どんな項目が必要ですか?
機器(種類・管理番号・利用者・保守期限)、ソフトウェアのライセンス、クラウドサービスの契約と管理者、アカウントと権限、保守契約や連絡先が基本です。IPAの中小企業向けガイドラインに資産管理台帳のサンプルがあるため、自社向けに簡略化して使う方法もあります。
情シス業務は外部に任せてしまってよいのでしょうか?
日常の保守・監視やヘルプデスクの一次対応といった作業は外部に任せやすい一方、どのシステムに投資するか、どこまでのリスクを許容するかといった判断は社内に残すのが基本です。すべてを丸投げすると、ノウハウも判断力も社内に蓄積しなくなります。
自動化しやすい情シス業務にはどんなものがありますか?
OS・ソフトウェアの更新、バックアップ、資産情報の収集、入退社時のアカウント発行・削除、よくある問い合わせへの対応などが代表的です。自動化した後も、バックアップから復元できるかといった確認は人が定期的に行います。
兼務情シスの負担を減らすために、経営者ができることは何ですか?
IT業務の優先順位と、対応しないこと・後回しにすることを担当者と合意し、本業との時間配分を明確にすることです。外部委託やツールへの投資判断に経営が関与することで、担当者一人に負担が集中する状態を防げます。
限られた人員でのシステム運用や、属人化・DX推進の体制づくりにお悩みの際は、株式会社ノアブリッジのコンサルティング・業務改革支援へお気軽にご相談ください。自社の状況に合わせた運用設計の考え方を一緒に整理します。
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