管理職の負担を減らす:プレイングマネジャー問題への向き合い方
「課長になった途端、自分の仕事は減らないのに部下のマネジメントまで増えた」。多くの管理職が抱えるこの実感は、感覚ではなくデータで裏づけられています。日本の課長のほとんどはプレイヤー業務とマネジメント業務を兼務するプレイングマネジャーであり、その過重な負担はマネジメントの空洞化や次世代の管理職離れにもつながっています。この記事では、プレイングマネジャー問題の実態を公的な調査で確認したうえで、中小・中堅企業の経営者や人事責任者が現場の負担をどう軽くできるか、具体的なアプローチを整理します。
プレイングマネジャー問題とは何か
プレイングマネジャーとは、自らも現場の実務(プレイヤー業務)を担いながら、部下のマネジメントも行う管理職を指します。多くの日本企業で当たり前になっている働き方ですが、両方の役割を一人で背負うため、負担が過大になりやすい構造を抱えています。まず、それがどれほど一般的なのかを数字で確認しましょう。
ほぼすべての課長がプレイヤーを兼務している
産業能率大学総合研究所の「第6回 上場企業の課長に関する実態調査」(2021年9月実施、従業員100人以上の上場企業に勤務し部下を1人以上持つ課長828人が回答)によると、課長の99.5%がプレイングマネジャーでした。純粋なマネジメントだけに専念している課長は、ごく少数にとどまります。さらに同調査の第5回(2019年実施、課長714人が回答)では、課長の業務に占めるプレイヤー業務の比率は加重平均で49.1%にのぼり、仕事の約半分を実務が占めていました。管理職でありながら、時間の半分は現場のプレイヤーとして動いているのが実態です。
「できる人」ほど負担が集中する
プレイヤー業務が減らない背景には、現場特有の事情があります。リクルートマネジメントソリューションズの「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年」では、管理職がプレイング業務を担わざるを得ない理由として最も多く挙げられたのは「メンバーに知識・スキルが不足しており仕事を一任できない」でした。人手不足や育成の遅れが、結果として「自分でやった方が早い」状況を生み、実務の負担が管理職に集中していきます。同調査では、管理職がマネジメント業務に携わる比率は『50%』という回答が最も多く(20.7%)、残り半分をプレイヤーとして稼働している管理職が中心層であることがうかがえます。
負担を放置すると何が起きるか
二重の負担をそのままにしておくと、困るのは管理職本人だけではありません。組織全体に影響が及びます。
マネジメントが後回しになり空洞化する
目の前の実務に追われると、部下の育成や面談、チームの方向づけといった、成果が見えにくく後回しにしやすい仕事から削られていきます。前述の産業能率大学の第5回調査では、課長の59.0%が「プレイヤーとしての活動がマネジメント業務に支障がある」と回答しました(第6回調査でも約5割が支障を感じています)。マネジメントの質が下がれば、部下の成長が鈍り、「仕事を任せられない」状況がさらに固定化するという悪循環に陥ります。
次世代が管理職を目指さなくなる
疲弊した上司の姿は、部下にとって将来の自分像になります。パーソル総合研究所の「働く10,000人の就業・成長定点調査」では、若手社員のうち管理職になりたいと考える積極層は約3割にとどまり、なりたくないと考える消極層は約5割に達していました。過重な負担を抱えた管理職が身近にいる職場では、「ああはなりたくない」と昇進を敬遠する空気が強まりかねません。管理職の負担軽減は、目先の働き方の問題であると同時に、次世代のリーダーを確保できるかという経営課題でもあります。
負担を減らす4つのアプローチ
では、どう手を打てばよいのでしょうか。「気合で乗り切る」「残業を減らせと号令をかける」だけでは解決しません。構造に働きかける4つのアプローチを順に見ていきます。
1. 業務の棚卸しと再配分
まず、管理職が実際に何に時間を使っているかを可視化します。1〜2週間でよいので業務を書き出し、「本人でなければできない仕事」と「他に任せられる・やめられる仕事」に仕分けます。棚卸しをすると、慣習で続けているだけの会議や資料作成、本来は部下やほかの部署に移せる作業が見つかることが少なくありません。削減・移管・自動化の対象を決め、管理職がマネジメントに使える時間を物理的に空けることが出発点です。
2. 権限委譲を進める
「仕事を一任できない」の裏には、スキル不足だけでなく、任せる側の不安や権限設計の曖昧さもあります。産業能率大学の第5回調査では、自分には十分な権限がないと考える課長が37.4%いました。委譲を進めるには、任せる範囲と判断基準をあらかじめ言葉にし、失敗をある程度許容する前提で小さく任せることが有効です。任せることは放任ではなく、育成の機会でもあります。委譲が進めば部下が育ち、中長期的には管理職の実務負担そのものが減っていきます。
3. 期待役割を再定義する
そもそも管理職に何を期待するのかが曖昧なまま、プレイヤーとしての数字責任とマネジメント責任の両方を同時に求めていないでしょうか。経営・人事の側で、その役職に求める役割の重心を明確にすることが必要です。たとえばプレイヤー業務の目標を意図的に軽くし、育成やチームの成果に責任の重心を移す。評価の基準も、個人の実務成果だけでなくチームを機能させた度合いを織り込む。期待を言語化し直すことで、管理職は「何を優先し、何を手放してよいか」を判断できるようになります。
4. 仕組みと支援で支える
個々の管理職の工夫に委ねるだけでは、負担は再び膨らみます。組織として支える仕組みが要ります。
- 定型業務の標準化・自動化や、事務作業を担う支援役の配置で実務量そのものを減らす
- 管理職に求める役割や優先順位を、研修や上位者との対話を通じて繰り返し共有する
- 管理職が孤立しないよう、相談相手や管理職同士が学び合う場を用意する
- 負担の実態を定期的に把握し、特定の人に業務が偏っていないかを点検する
これらは一度に全部そろえる必要はありません。自社で着手しやすいものから始め、効果を見ながら広げていくのが現実的です。
明日から始める3つの一歩
大がかりな制度改革の前に、小さく始められることがあります。次の3点は、特別な予算がなくても今週から着手できます。
- 管理職に1〜2週間の業務棚卸しを依頼し、やめられる仕事・移せる仕事を一つでも特定する
- その管理職と、任せられる仕事と任せる相手について一度じっくり話す場を持つ
- その役職に本当に期待したい役割は何かを、経営・人事の側で言葉にしてみる
プレイングマネジャー問題は、根性論では解けません。業務量・権限・期待役割という構造に手を入れ、組織として管理職を支える仕組みをつくることが、遠回りに見えて最も確実な道です。
管理職の疲弊は個人の能力不足ではなく、役割設計の問題です。負担を減らす一歩は、仕事を見える化し、手放してよいものを決めることから始まります。
この記事のまとめ
- 日本の課長の99.5%はプレイヤーを兼務するプレイングマネジャーで、業務の約半分を実務が占めるという公的調査の結果がある
- 負担を放置するとマネジメントが空洞化し、疲弊した上司を見た次世代が管理職を敬遠するという悪循環に陥る
- 負担軽減は『業務の棚卸しと再配分・権限委譲・期待役割の再定義・仕組みと支援』の4つのアプローチで構造に働きかける
- まずは業務棚卸し・任せる相手の見極め・期待役割の言語化という、予算をかけずに始められる3つの一歩から着手する
よくある質問
プレイングマネジャーをやめさせれば問題は解決しますか?
兼務そのものをなくすのは現実的でなく、必ずしも必要でもありません。問題は二重負担が個人任せで放置されることにあります。プレイヤー業務の量を適正化し、権限委譲や支援の仕組みでマネジメントに使える時間と余力を確保することが解決の本質です。
人手が足りず、管理職にプレイヤー業務を任せざるを得ません。どうすればよいですか?
まず業務の棚卸しで、やめられる仕事や他に移せる仕事を洗い出します。そのうえで、定型業務の標準化・自動化や事務支援役の配置で全体の実務量を減らし、残る実務を管理職だけに集中させない配分を検討します。並行して権限委譲で部下を育て、中長期的に実務負担を下げていきます。
権限委譲を進めたいのに、管理職が『任せられない』と言います。どうすればよいですか?
多くは部下のスキル不足への不安が背景にあります。いきなり丸投げするのではなく、任せる範囲と判断基準を事前に言葉にし、失敗をある程度許容する前提で小さな仕事から任せます。委譲は育成の機会でもあり、部下が育つほど管理職の実務負担は減っていきます。
管理職の負担軽減や、権限委譲が進む組織づくり・管理職の役割再定義でお困りの際は、ノアブリッジのコンサルティング・組織開発・人材開発のサービスがお手伝いします。自社の体制や課題に合わせた進め方について、お気軽にご相談ください。
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