ITコスト最適化:ムダを見つける棚卸しの手順

ITコスト最適化:ムダを見つける棚卸しの手順

サブスクリプションやクラウド、保守契約が積み重なり、「毎月何にいくら払っているのか、正確には分からない」という状態になっていないでしょうか。IT予算は年々増える傾向にありますが、その増加の多くは自社の判断ではなく、円安やベンダーの値上げといった外部要因によるものです。だからこそ、いま支払っているコストの中身を点検し、ムダを見つける「棚卸し」が欠かせません。本記事では、公的な調査データを手がかりに、ITコストを可視化して最適化する具体的な手順を整理します。

なぜ今、ITコストの棚卸しが必要なのか

日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が経済産業省の監修のもとにまとめた「企業IT動向調査2025」(2024年度調査、回答981社)によれば、IT予算を「増やす」と答えた企業から「減らす」と答えた企業を差し引いたDI値は、2024年度計画で42.3ポイントと、過去10年間で最高値を記録しました。2025年度予測も40.6ポイントと高水準が続いています。多くの企業でIT予算は増加基調にあるのです。

ただし注意したいのは、その増加理由です。同調査では、IT予算が増える理由のトップに「円安・人件費高騰・ベンダー提供価格の値上げなどによる影響」が挙がっています。つまり近年のIT予算の膨張は、新しい価値を生む攻めの投資というより、放っておいても外部環境によってコストが押し上げられている側面が大きいのです。

一方で、そのコストが本当に効いているかを点検する仕組みは追いついていません。同じ調査では、4割近い企業がIT投資の評価そのものを「未実施」と回答し、既存システムにかかるランニングコストの評価にいたっては、実施率は3割程度にとどまると報告されています。増える一方で点検されていない――これがムダの温床になります。

IT予算が「勝手に膨らむ」局面だからこそ、何にいくら払い、それがどれだけ効いているのかを定期的に棚卸しすることが、コスト最適化の出発点になります。

「攻めのIT」の原資は、守りのコストの見直しから生まれる

経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」は、日本企業ではIT予算の約8割が既存システムの維持・運用(いわゆる守りのIT)に充てられ、新たな価値創出に振り向けられていないと指摘しました。老朽化・複雑化したレガシーシステムを放置すれば、2025年以降に最大で年間12兆円もの経済損失が生じうるという「2025年の崖」の警鐘は、いまも多くの企業に当てはまります。

裏を返せば、守りに固定化しているコストを棚卸しして少しでも圧縮できれば、それがそのままデータ活用や生成AIといった攻めの投資の原資になります。ITコストの最適化は、単なる経費削減ではなく、限られた予算の配分を組み替えるための取り組みなのです。

ITコスト棚卸しの5つの手順

棚卸しは、思いつきで「高そうな契約」から切っていくと必ず失敗します。次の順序で、全体を見える化してから判断することが重要です。

  1. コストの全量を1枚に集めて可視化する
  2. 契約内容と実際の利用状況を突き合わせる
  3. 見つかったムダを4つの類型で仕分ける
  4. 削減・見直しの打ち手を決める
  5. 浮いた原資を攻めに再配分し、定点観測に載せる

手順1:コストの全量を1枚に集めて可視化する

まず、IT関連の支出を一覧化します。ソフトウェアのライセンス、SaaS(クラウドサービス)のサブスクリプション、クラウドインフラの利用料、ハードウェアの保守契約、通信回線、外部委託費など、費目を漏れなく洗い出します。項目ごとに「契約先・契約単位(ユーザー数や容量)・月額または年額・契約更新日・管轄部署・利用目的」を並べると、点在していた支払いが一枚の表として見えるようになります。経理データだけでなく、現場が個別に契約したツールも拾うことが、後述するムダの発見につながります。

手順2:契約内容と実際の利用状況を突き合わせる

次に、契約している数量と実際の利用実態を照らし合わせます。ユーザー課金のサービスなら「発行しているアカウント数」と「直近3か月にログインしている人数」を比べます。クラウドなら契約容量と実使用量、保守契約なら対象システムがまだ稼働しているかを確認します。ここで「契約はしているが使われていない」という差分が、削減余地の正体です。ログイン履歴や利用ログを提供元の管理画面から取得できるサービスも多いため、感覚ではなく実データで突き合わせます。

手順3:見つかったムダを4つの類型で仕分ける

洗い出した差分は、原因別に仕分けると打ち手が決めやすくなります。ムダは大きく「未利用・重複・過剰・塩漬け」の4類型に整理できます(詳細は次章)。類型が分かれば、解約すべきか、統合すべきか、プランを落とすべきか、といった対応の方向が自然と定まります。

手順4:削減・見直しの打ち手を決める

仕分けた結果をもとに、契約単位で対応を決めます。完全に使われていないものは解約、機能が重なるツールは1つに統合、スペックが過剰なものは下位プランへ変更、というのが基本です。ただし、金額の大きさだけで機械的に判断してはいけません。削減がもたらす業務や安全性への影響も併せて評価し、優先順位をつけます。効果が大きく副作用の小さいものから着手するのが定石です。

手順5:浮いた原資を攻めに再配分し、定点観測に載せる

削減で浮いた予算は、そのまま消すのではなく、データ活用や業務自動化、生成AIの試験導入といった攻めの領域へ再配分することを検討します。そして棚卸しは一度で終わらせず、契約更新のタイミングや四半期ごとに見直す運用に載せます。新しいツールは日々増えるため、定点観測にしなければすぐに元の「膨らみっぱなし」の状態へ戻ってしまいます。

見つかりやすいムダの4類型

棚卸しで浮かび上がるムダは、次の4つのパターンに集約されます。自社の一覧表を眺めながら、どれに当てはまるかを確認してみてください。

特に「未利用」のうち退職者アカウントの放置は、コストのムダであると同時にセキュリティ上のリスクでもあります。入退社に連動してアカウントを棚卸しする運用は、コストと安全の両面で効果があります。

棚卸しでやりがちな3つの失敗

最後に、コスト最適化がかえって現場を混乱させないよう、避けたい典型的な失敗を挙げます。

1. 単年のコストだけを見て切ってしまう

月額の大きさだけで解約を決めると、現場の業務が止まったり、代わりに従業員が会社の管理外のツールを勝手に使い始める「シャドーIT」を招いたりします。削減は、その支出が支えている業務価値とセットで判断する必要があります。安く見えても業務の根幹を支えているものは、無理に削らない判断も大切です。

2. 可用性やセキュリティを軽視して削る

バックアップや監視、セキュリティ対策の費用は、平時には効果が見えにくいためムダと誤認されがちです。しかし、これらを削った結果として障害や情報漏えいが起きれば、削減額をはるかに上回る損失になりかねません。守りのコストは「効いていないから減らす」のではなく、「過不足がないか」で評価します。

3. 一度きりのイベントで終わらせる

棚卸しを単発のプロジェクトとして実施し、やり切って満足してしまうと、翌年には新しいツールが再び無秩序に増えています。契約の申請・棚卸し・見直しを定常業務として仕組みに組み込むことで、はじめてコスト最適化は持続します。

なお、契約の解約条件や自動更新、税務・会計上の取り扱いには個別の判断が必要な場合があります。金額や影響の大きい見直しを行う際は、契約書の条項を確認し、必要に応じて自社の管理部門や専門家に相談したうえで進めることをおすすめします。

この記事のまとめ

  • IT予算は増加基調だが、増加要因の多くは円安やベンダー値上げなど外部要因であり、コストは放置すると膨らみ続ける
  • 公的調査では4割近い企業がIT投資評価を未実施で、ランニングコストの点検が追いついていない
  • 棚卸しは「可視化→利用実態との突き合わせ→4類型で仕分け→打ち手決定→再配分と定点観測」の5手順で進める
  • ムダは未利用・重複・過剰・塩漬けの4パターンに集約でき、削減額だけでなく業務価値・安全性とセットで判断する

よくある質問

ITコストの棚卸しは、まず何から始めればよいですか?

支払っているIT関連費用を1枚の表にまとめる「可視化」から始めます。ライセンス、SaaS、クラウド、保守、通信、外部委託などを費目ごとに、契約単位・金額・更新日・管轄部署・利用目的を並べます。全体像が見えて初めて、どこにムダがあるかを判断できます。

コスト削減で最も見つかりやすいムダは何ですか?

退職者のアカウントが解除されずライセンス料が発生し続けているケースや、導入後に使われなくなったSaaS、部署ごとに重複契約されたツールです。ユーザー課金のサービスでは、発行アカウント数と実際のログイン人数を突き合わせると差分が見つかります。

IT予算はどのくらいが適正水準ですか?

適正水準は業種や事業モデル、DXの段階によって大きく異なるため、一律の目安を当てはめるのは適切ではありません。金額の絶対値より、支出が業務価値に見合っているか、守りと攻めのバランスが取れているかを、自社の棚卸し結果に基づいて評価することが重要です。

「どこにムダがあるか分からない」「守りのコストを攻めに振り向けたい」といったITコストの見直しは、業務全体の可視化とあわせて進めると効果が高まります。ノアブリッジでは、業務改革・DX支援の一環として現状の可視化からご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。

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参考文献

  1. 一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査2025(2024年度調査)」
  2. 経済産業省「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」(2018年)
  3. 経済産業省「産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)」
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