データ連携の基礎知識:システム間をつなぐ方法とAPI活用
業務ごとにSaaSを導入した結果、顧客情報や受発注データがシステムごとに分断され、転記や二重入力が現場の負担になっている——多くの企業がこの「データのサイロ化」に直面しています。解消の鍵が、システム同士をつなぐ「データ連携」です。本記事では、API・ファイル連携・ETL・iPaaSといった代表的な手法の違いと使い分け、そして中心的な役割を担うAPIの基礎を、システム部門の担当者に向けて整理します。
なぜいま「データ連携」が経営課題なのか
経済産業省は2018年9月に「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」を公表し、老朽化・複雑化・ブラックボックス化した既存システムを放置すれば、2025年以降に年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしました。この「2025年の崖」の背景の一つが、システム同士がうまくつながらず、データが分断されている状態です。
個別最適で導入されたシステムは、それぞれが独立したデータベースを持ちます。連携が取れていないと、同じ顧客情報を複数のシステムに手入力する、月次でExcelに転記して突き合わせる、といった手作業が発生します。これは工数の無駄であるだけでなく、転記ミスやデータの食い違いという品質リスクにも直結します。
連携方式を理解するための3つの軸
具体的な手法に入る前に、連携方式を整理する3つの軸を押さえておくと、比較がしやすくなります。
リアルタイムか、バッチか
データを発生の都度すぐに反映するのが「リアルタイム連携」、1日1回など決まったタイミングでまとめて処理するのが「バッチ連携」です。在庫や予約のように即時性が重要な情報はリアルタイム、大量データの集計や夜間更新はバッチが向きます。
個別接続か、ハブ経由か
システムを1対1で直接つなぐと、システム数が増えるほど接続の組み合わせが急増し、保守が困難になります。連携基盤(ハブ)を中央に置き、各システムをそこにつなぐ「ハブ&スポーク」型にすると、接続点が整理され、変更の影響範囲を抑えられます。
どちらがデータを取りに行くか
受け手が能動的にデータを取得する「プル型」か、送り手が変化を通知する「プッシュ型」か、という違いもあります。この設計を曖昧にすると、更新漏れや重複処理の原因になります。
主なデータ連携方法と使い分け
代表的な連携手法には、それぞれ得意な領域があります。「どれが優れているか」ではなく「どの状況にどれが向くか」で捉えることが大切です。
- API連携:システムが公開する窓口(API)を通じてリアルタイムにデータをやり取りする。SaaS同士やクラウドサービスとの連携に強い
- ファイル連携(CSV/SFTP):CSVなどのファイルを介してやり取りする。APIを持たない古い基幹システムでも使える現実的な手段
- EAI:社内の多様なアプリケーション(基幹系を含む)を接続・統合するための基盤。リアルタイム性と業務プロセス連動に向く
- ETL:データを抽出・変換・格納する処理に特化し、データウェアハウスへの集約や分析用データの整備に向く。バッチ処理が中心
- iPaaS:クラウド上で提供される連携基盤。SaaSやAPIベースのサービス同士をノーコード寄りでつなぐことに長ける
- RPA:システムの画面操作を自動化する手段。APIやファイル連携が用意できない場合の補完策として使われる
中心的役割を担う「API」の基礎
クラウド活用が前提の現在、連携の中心にあるのがAPIです。APIとは、あるシステムの機能やデータを、他のシステムから決められた手順で利用できるようにする「窓口」のことです。内部の作り込みを知らなくても、公開された仕様どおりにリクエストを送れば、必要なデータや機能を利用できます。
Web APIとRESTの考え方
Webで広く使われるのが、REST(Representational State Transfer)という設計原則に沿ったAPIです。データを「リソース」として扱い、HTTPの標準的なメソッド——取得はGET、作成はPOST、更新はPUT、削除はDELETE——を用いて操作します。シンプルで統一的なため、多くのSaaSが採用しています。
公的機関も設計の指針を整備しています。デジタル庁は「APIテクニカルガイドブック」を、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は「API標準設計ガイド」を公開しており、標準に沿ったAPI設計の考え方を確認できます。自社でAPIを設計・公開する場合は、こうした一次情報を出発点にすると安全です。
連携プロジェクトを失敗させないための進め方
連携は「つなげば終わり」ではありません。運用まで見据えた設計が、後戻りを防ぎます。
- 目的の明確化:何の手作業をなくし、どの業務を速くするのかを先に定義する。手段(API/ファイル等)の選定はその後
- データの棚卸し:どのシステムがどのデータの「正」を持つか(マスターの所在)を決める。ここが曖昧だと更新の衝突が起きる
- 連携方式の選定:更新頻度・データ量・相手システムの対応状況(APIの有無)から現実的な方式を選ぶ
- 例外とエラーの設計:通信失敗・データ不整合が起きたときの再実行や検知の仕組みを最初から織り込む
- 運用体制の確保:仕様変更やAPIのバージョンアップに追随できる保守体制を用意する
連携は最新技術の採用競争ではなく、「データの正をどこに置き、どう保つか」という設計の問題です。
とりわけ、相手システムがAPIを持たない、社内にAPI仕様を読み解ける人材がいない、といった制約は珍しくありません。無理に高度な方式を選ばず、まずはファイル連携で確実に自動化し、段階的にAPI化していく現実解も有効です。
この記事のまとめ
- データ連携の目的は「つなぐこと」ではなく、二重入力をなくし最新で一致したデータを共有すること
- 連携方式はリアルタイム/バッチ、個別接続/ハブ経由、プル/プッシュの3軸で整理すると比較しやすい
- API・ファイル・EAI・ETL・iPaaS・RPAはそれぞれ得意領域が異なり、更新頻度・データ量・システム構成で選ぶ
- APIはRESTとHTTPメソッド(GET/POST/PUT/DELETE)が基本。デジタル庁やIPAの公式ガイドを一次情報に活用できる
- 成功の鍵は手段選定より先の「目的定義」と「データの正の所在(マスター設計)」、そして運用体制の確保
よくある質問
APIとファイル連携(CSV)は、どちらを選ぶべきですか?
即時性が求められ、相手システムがAPIを公開しているならAPI連携が有利です。一方、APIを持たない古い基幹システムや、夜間にまとめて処理すれば十分なデータは、CSV/SFTPによるファイル連携が確実で低コストな現実解になります。要件(即時性)と相手システムの対応状況で判断します。
iPaaSとEAI、ETLの違いは何ですか?
EAIは基幹系を含む社内システムをリアルタイムに統合する基盤、ETLはデータを抽出・変換して分析基盤に集約するバッチ中心の手法、iPaaSはクラウド上でSaaSやAPIベースのサービス同士をつなぐ基盤です。クラウド中心ならiPaaS、社内基幹の同期ならEAI、分析用の集約ならETLが目安です。
社内にAPIの知識を持つ人がいなくても連携は進められますか?
進められます。iPaaSのようなノーコード寄りのツールは専門知識を抑えて連携を構築できます。まずはファイル連携で確実に自動化し、体制が整ってから段階的にAPI化する進め方も有効です。無理に高度な方式を選ばず、運用を継続できる範囲から始めることが失敗を防ぎます。
「どのシステムから、どの方式でつなぐべきか」の見極めは、業務とデータの現状整理が出発点になります。ノアブリッジは業務の可視化から連携方針の設計、導入後の定着までを一貫して支援しています。データ連携やシステム活用にお悩みの際は、お気軽にご相談ください。