業務可視化の進め方|業務フロー図の書き方・棚卸し・粒度を解説
業務可視化(業務の見える化)とは、誰が・何をきっかけに・どんな手順と判断で仕事を進めているかを、一覧や業務フロー図として目に見える形に整理することです。「どこにムダがあるのか分からない」「担当者が抜けると業務が止まる」という悩みの多くは、業務の全体像が見えていないことに端を発します。この記事では、業務可視化の進め方を6つの手順で整理し、業務棚卸しのやり方、業務フロー図の基本記号とスイムレーンの書き方、最も迷いやすい粒度の決め方、ツールの選び方、改善へのつなげ方までを実務の順序で解説します。
業務可視化とは:目的と「見える化」で得られるもの
業務可視化とは、日々おこなわれている仕事の流れ・担当・入出力(受け取るもの・渡すもの)・判断基準を、誰が見ても同じように理解できる形に整理することです。「業務の見える化」とも呼ばれます。多くの現場では、業務手順が個々の担当者の頭の中にあり、文書化されていません。この属人化は、担当者の異動や退職とともにノウハウが失われるリスクを生み、改善やシステム化の障害にもなります。
業務可視化は、それ自体が目的ではありません。業務改善・システム導入・DX・引き継ぎといった次の打ち手の土台となる「現状把握」です。代表的な目的には次のようなものがあり、どれを選ぶかで描く範囲や細かさが変わります。
- 業務改善:滞留・手戻り・重複など、ムダが生じている箇所を特定する
- 属人化の解消・引き継ぎ:担当者の頭の中にある判断基準や例外処理を共有可能にする
- システム導入・DX:業務とシステムの対応関係を整理し、要件定義の前提をそろえる
- 内部統制・品質管理:どこでチェックや承認がおこなわれているかを明らかにする
業務可視化の進め方:6つの手順
業務可視化は、いきなりフロー図を描き始めるとかえって迷走します。次の順序で進めると、抜け漏れなく全体像に到達できます。
- 目的と対象範囲を決める:何のために可視化するのか(改善・システム化・引き継ぎなど)と、どの部門・業務を対象にするかを先に定義する
- 業務棚卸しをする:部門・担当者ごとに、どんな業務があるかを階層的に一覧化する
- 業務の流れをヒアリング・観察で把握する:開始のきっかけ、作業手順、判断分岐、成果物、次工程への受け渡しを洗い出す
- 業務フロー図に落とし込む:整理した流れを、記号とスイムレーンを使って図にする
- 関係者でレビューする:担当者本人と前後工程の関係者に図を確認してもらい、実態とのずれを直す
- 課題を抽出し、改善につなげる:滞留・手戻り・重複・属人化しているポイントに印をつけ、改善策を検討する
目的を先に固定する理由
目的が曖昧なまま作業を始めると、描く範囲と細かさが際限なく膨らみます。「基幹システム刷新のため」なら業務とシステムの対応関係を重視し、「引き継ぎのため」なら担当者の判断基準や例外処理を厚く記述するなど、目的によって注力点が変わります。目的は最初に一文で言語化し、関係者と共有しておきましょう。対象範囲も「受注から請求まで」のように、始点と終点で区切って決めておくと、議論が発散しにくくなります。
ヒアリングと観察のコツ
業務の流れは、担当者へのヒアリングだけでは把握しきれません。本人にとって当たり前の作業ほど言語化されにくいためです。実際の帳票・システムの操作画面・メールやチャットのやり取りといった一次情報を一緒に確認し、可能であれば作業の様子を観察すると、本人も意識していない「隠れた作業」や手元の控え、二重チェックが見つかります。「通常はこう流れるが、例外のときはどうするか」も必ず聞いておきます。
業務棚卸しのやり方:業務を一覧にする
業務棚卸しとは、組織にどんな業務があるかを洗い出し、一覧として整理することです。業務フロー図を描く前に棚卸しをしておくと、どの業務を図にすべきかの優先順位がつけやすくなり、描き漏れも防げます。
棚卸しでは、「大分類(業務領域)→中分類(業務)→小分類(作業)」の階層で業務を一覧化します。大分類は「経理」「人事」などの機能、中分類は「支払処理」「給与計算」などの業務、小分類は「請求書の受領・確認」のように動詞を含む作業単位で書くと、記入者による解釈のぶれを抑えられます。棚卸しの段階では網羅性を優先し、細かい手順の描写は次工程に回すのがコツです。
一覧には、業務名に加えて次のような項目を持たせておくと、後の分析に使えます。表計算ソフトで十分に作成できます。
- 担当者(主担当・副担当)と関係部署
- 発生頻度(毎日・毎週・月次・年次・不定期)
- インプットとアウトプット(受け取る書類・データ、作成する成果物)
- 使用しているシステム・ツール
- おおよその所要時間と、その業務を担える人数
「その業務を担える人数」が1人の業務は属人化の候補、発生頻度が高く所要時間も大きい業務は改善効果が出やすい候補です。時間まで正確に把握したい場合は、業務量調査を組み合わせます。広島県の働き方改革取組マニュアルでも、業務棚卸表で業務を分類したうえで、日報などに業務ごとの作業時間を記録し、「減らす」「維持」「増やす」業務を見定める手順が紹介されています。
業務フロー図の書き方:記号・スイムレーン・手順
業務フロー図は、作業(処理)・判断(分岐)・成果物・担当者の流れを、記号と矢印で表現した図です。複数の部門や担当者をまたぐ業務では、「スイムレーン」を使うのが基本です。スイムレーンとは、図を横または縦の帯(レーン)で区切り、各レーンに担当者・部門・システムを割り当てる書式で、どのレーンに処理が置かれているかで「誰がその処理を担うのか」が一目で分かります。
基本の記号をそろえる
作図で最も大切なのは、記号の意味を関係者間でそろえることです。業務フロー図でよく使われるのは次の記号です。
- 端子(角丸の長方形や楕円):業務の開始と終了
- 処理(長方形):作業・処理
- 判断(ひし形):条件による分岐(「承認するか」「金額は基準以上か」など)
- 書類(下辺が波形の長方形):帳票や紙の書類
- 矢印:作業の流れの向き
流れ図の記号については、日本産業規格のJIS X 0121「情報処理用流れ図・プログラム網図・システム資源図記号」があり、端子・処理・判断・書類・手作業などの記号が定められています。本来は情報処理向けの規格ですが、業務フロー図でもこれに準じた記号が広く使われています。いずれの記号を使う場合も、凡例を図の隅に付けておくと読み手が迷いません。
業務フロー図を描く手順
- スイムレーンを設定する:登場する担当者・部門・社外の関係者・システムを洗い出し、レーンとして並べる
- 開始と終了を置く:業務が始まるきっかけ(注文の受信など)と、終わる状態(入金の確認など)を決める
- 通常の流れを描く:例外は後回しにして、最も頻度の高い流れを時系列で並べる
- 判断と例外を加える:結果が大きく変わる分岐だけをひし形で描き、細かな例外は注記にする
- 書類・データ・システムを書き添える:各処理で受け渡される帳票やデータ、使うシステムを記入する
- 担当者と確認する:実態と合っているか、抜けている作業がないかをレビューで確かめる
流れは「左から右」または「上から下」の一方向にそろえ、矢印の交差を減らすと読みやすくなります。中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21の解説でも、最初はざっくりした概要レベルから描き始め、非効率な箇所を目立つように記し、必要に応じて詳細なレベルを作成する進め方が紹介されています。
標準記法BPMNという選択肢
描き手ごとに記号がばらつくと、図の解釈が分かれます。これを避けるための国際的な標準記法がBPMN(Business Process Model and Notation)です。BPMNは標準化団体OMG(Object Management Group)が策定し、BPMN 2.0.1と同一の内容がISO/IEC 19510:2013として国際規格になっています。業務担当者が理解できる分かりやすさと、システム実装につなげられる厳密さの両立を狙った記法で、全社で作図ルールを統一したい場合や、システム部門と業務部門が同じ図を共有したい場合に有力な選択肢となります。
粒度の決め方:細かすぎず、粗すぎず
業務可視化で最もつまずきやすいのが粒度(どこまで細かく描くか)です。細かすぎると作成・保守に手間がかかり、粗すぎると改善の手がかりが見えません。粒度は「一枚で描き切ろうとせず、階層で分ける」ことで解決します。
3つの階層で分けて描く
- 全体像レベル:部門をまたぐ業務の大きな流れを、1業務=1ボックス程度でつかむ
- 業務レベル:一つの業務を、担当者と主要な作業ステップで描く(スイムレーンが活きる層)
- 手順レベル:特定の作業を、画面操作や入力項目まで細かく描く(マニュアル化・システム化の直前で使う)
上位の層で全体像を共有し、改善やシステム化の対象になった業務だけを下位の層で詳細化します。すべてを手順レベルで描く必要はありません。手順レベルの内容は、図よりも業務マニュアルや手順書として文章で残したほうが扱いやすい場合も多くあります。
粒度をそろえる目安
同じ一枚の図の中では、ボックスの大きさ(作業のまとまり)をそろえるのが原則です。目安として「一つのボックス=一人の担当者が、中断せずに完了できる一まとまりの作業」と定義すると、粒度がぶれにくくなります。ボックスの名前は「請求書を発行する」のように「名詞+動詞」で書くと、作業の範囲が明確になります。一枚に収まらないほどボックスが増えた場合は、粒度が細かすぎるか、対象範囲が広すぎるサインです。
業務可視化ツールの選び方
業務フロー図は、専用ツールがなくても描けます。大切なのは、関係者が無理なく閲覧・更新できることです。目的と規模に応じて、次のように使い分けるとよいでしょう。
- 紙・付箋・ホワイトボード:関係者が集まって流れを洗い出す初期段階に向く。手軽だが清書と保存が別途必要
- 表計算ソフト・プレゼンテーションソフト:追加費用がかからず、多くの社員が使い慣れている。図が大きくなると修正の手間が増える
- 作図ツール・オンラインホワイトボード:スイムレーンや記号のテンプレートがあり、共同編集もしやすい。全社で使うなら記号ルールを決めておく
- BPMN対応のモデリングツール:記法を厳密にそろえたい場合や、システム化・業務管理と連携させたい場合に向く
- プロセスマイニングツール:システムに残る操作記録(イベントログ)から実際の業務の流れを再現する。システム上の業務は客観的に把握できるが、紙や口頭のやり取りは捉えにくい
ツール選定でよくある失敗は、高機能なツールを導入したものの、描ける人が一部に限られて更新が止まることです。まずは普段使っている道具で描いてみて、図の数や共有範囲が増えてきた段階で専用ツールを検討する順番が現実的です。
可視化を「改善」につなげる:ECRSと継続運用
業務可視化はゴールではなく出発点です。描いた図をもとに、次のような視点で課題を洗い出します。
- 滞留:承認待ちや差し戻しで、処理が止まっている箇所はないか
- 手戻り:後工程で修正が発生し、矢印が前に戻っている箇所はないか
- 重複:同じ情報を複数の部署やシステムに転記・入力していないか
- 過剰なチェック:目的の分からない確認や押印が重なっていないか
- 属人化:特定の一人しか担えない処理や判断が集中していないか
洗い出した課題の改善策を考える視点として広く使われるのが「ECRS(改善の4原則)」です。日本能率協会コンサルティング(JMAC)の用語集では、業務改善を実施するうえでの順番と視点を示したものと説明されています。
- E=Eliminate(排除):その作業・成果物そのものをなくせないか
- C=Combine(結合と分離):似た作業をまとめられないか、性質の異なる作業は分けるべきか
- R=Rearrange(入替えと代替):作業の順序・場所・担当を入れ替えられないか
- S=Simplify(簡素化):残った作業をより簡単にできないか
ECRSはE→C→R→Sの順で検討するのが定石です。作業そのものをなくせれば、コストも手間もかからず実行も速いためです。可視化した図の各作業にこの4つを問いかけると、システム化ありきではない、地に足のついた改善案が導けます。改善後の業務は「あるべき姿」の業務フロー図として描き直し、現状の図と並べて関係者の合意を取ります。
図を「生きた資料」として保つ
業務フロー図は、組織変更やシステム更新のたびに実態とずれていきます。図ごとに管理責任者と最終更新日を明記し、業務やシステムが変わったときに更新するルールを決めておくと、引き継ぎや新人教育、次の改善にも使い続けられる資産になります。
見えないものは、改善できない。まず流れを見えるようにすることが、あらゆる業務改善の第一歩になる。
なお、法務・労務・税務が関わる業務の見直しは、制度上の要件を踏まえる必要があります。判断に迷う場合は、一般的な情報に頼りきらず、専門家への確認を挟むことをおすすめします。
この記事のまとめ
- 業務可視化は、業務の流れ・担当・判断基準を目に見える形にする「現状把握」で、業務改善・システム導入・引き継ぎの土台になる
- 進め方は「目的と範囲の決定→業務棚卸し→ヒアリング・観察→フロー図化→レビュー→課題抽出と改善」の6手順で進める
- 業務フロー図はスイムレーンで担当を分け、端子・処理・判断・書類などの記号の意味をそろえる。全社統一にはBPMN(ISO/IEC 19510)も選択肢になる
- 粒度は全体像・業務・手順の3階層で分けて改善対象だけを詳細化し、可視化した課題はECRSの順で問い直して改善につなげる
よくある質問
業務可視化は何から始めればよいですか?
まず「何のために可視化するのか(改善・システム化・引き継ぎなど)」と対象範囲を決めます。次に部門・担当者ごとに業務を一覧化する業務棚卸しをおこない、優先度の高い業務から業務フロー図に落とし込みます。目的を先に固定すると、描く範囲と細かさがぶれません。
業務フロー図はどこまで細かく描くべきですか?
一枚で描き切ろうとせず、全体像・業務・手順の3階層に分けるのが基本です。全体像で大きな流れをつかみ、改善やシステム化の対象になった業務だけを手順レベルまで詳細化します。同じ図の中では「一人が中断せずに完了できる一まとまりの作業」を1ボックスの目安にすると粒度がそろいます。
業務フロー図の記号に決まりはありますか?
流れ図の記号は日本産業規格JIS X 0121で定められており、業務フロー図でもこれに準じて、開始・終了は角丸や楕円、処理は長方形、判断はひし形で描くのが一般的です。全社で記法を厳密にそろえたい場合は、国際標準のBPMN(ISO/IEC 19510)を採用する方法もあります。
業務棚卸しと業務可視化の違いは何ですか?
業務棚卸しは、組織にどんな業務があるかを洗い出して一覧にする作業です。業務可視化は、棚卸しで把握した業務について、流れ・担当・判断基準まで図や文書で見える形にする取り組み全体を指します。棚卸しは業務可視化の最初の工程と位置づけると分かりやすいでしょう。
業務フロー図はExcelで作れますか?
作れます。図形と矢印、罫線でスイムレーンを表現すれば、追加費用なく作成できます。ただし図が大きくなると修正の手間が増えるため、複数人で更新する場合や図の数が増えてきた場合は、テンプレートと共同編集機能を備えた作図ツールの利用も検討するとよいでしょう。
業務可視化から改善策の設計、定着に向けた現場の巻き込みまで、どこから手を付けるべきか迷う場合は、第三者の視点を入れると論点が整理しやすくなります。ノアブリッジは業務改革・組織開発・人材開発の支援を行っています。お気軽にご相談ください。
支援の具体例 → 導入事例:「いい話」で終わらせない業務改善の仕組み作り
参考文献
- J-Net21(中小企業基盤整備機構)「経営のお悩みスバッと解決 中小タスクが行く! 第17回:業務フロー作成編」
- 広島県『働き方改革取組マニュアル・事例集「取組アイデア編」』減らす業務の見える化
- 日本能率協会コンサルティング(JMAC)用語集 ECRS(改善の4原則)
- IEC Webstore|ISO/IEC 19510:2013 Information technology - Object Management Group Business Process Model and Notation
- Object Management Group|Business Process Model and Notation (BPMN)