業務可視化の進め方:業務フロー図の書き方と粒度の決め方
「どこにムダがあるのか分からない」「担当者が抜けると業務が止まる」——こうした悩みの多くは、業務の全体像が見えていないことに端を発します。システム導入やBPR、DXの前段として欠かせないのが業務可視化です。とはいえ、いざ業務フロー図を書こうとすると「どこまで細かく描けばよいのか」「何から手をつけるべきか」で手が止まりがちです。本記事では、業務棚卸しから業務フロー図の書き方、そして最も迷いやすい粒度の決め方までを、実務で使える順序で解説します。
なぜ今、業務可視化が必要なのか
業務可視化とは、日々おこなわれている仕事の流れ・担当・入出力・判断基準を目に見える形に整理することです。多くの現場では、業務手順が個々の担当者の頭の中にあり、文書化されていません。この「属人化」は、担当者の異動や退職とともにノウハウが失われるリスクを生み、改善やシステム化の障害にもなります。
業務可視化は、それ自体が目的ではなく、業務改善・システム導入・DXといった次の打ち手の土台になります。中小企業庁の2022年版中小企業白書では、デジタル化を段階的に高度化させる重要性が示され、その第一歩として「作業の効率化」にマイルストーンを置くことが挙げられています。効率化すべき対象を見極めるには、まず現状の業務がどう流れているかを把握する必要があります。
業務可視化の全体ステップ
業務可視化は、いきなりフロー図を描き始めるとかえって迷走します。次の順序で進めると、抜け漏れなく全体像に到達できます。
- 対象範囲と目的を決める:何のために可視化するのか(改善・システム化・引き継ぎなど)を先に定義する
- 業務棚卸しをする:部門・担当者ごとに、どんな業務があるかを一覧化する
- 各業務の流れを整理する:開始のきっかけ、作業手順、判断分岐、成果物、次工程への受け渡しを洗い出す
- 業務フロー図に落とし込む:整理した流れを図として描く
- 課題を抽出する:滞留・手戻り・重複・属人化しているポイントに印をつける
業務棚卸しの進め方
業務棚卸しでは、まず「大分類(業務領域)→中分類(業務)→小分類(作業)」の階層で業務を一覧化します。ヒアリングだけに頼らず、実際の帳票・システムの操作画面・メールのやり取りといった一次情報を合わせて確認すると、担当者本人も意識していない「隠れた作業」を拾えます。棚卸しの段階では網羅性を優先し、細かい手順の描写は次工程に回すのがコツです。
目的を先に固定する理由
可視化の目的が曖昧なまま作業を始めると、描く範囲と細かさが際限なく膨らみます。「基幹システム刷新のため」なら業務とシステムの対応関係を重視し、「引き継ぎのため」なら担当者の判断基準や例外処理を厚く記述するなど、目的によって注力点が変わります。目的は最初に一文で言語化しておきましょう。
業務フロー図の書き方
業務フロー図は、作業(処理)・判断(分岐)・成果物・担当者の流れを、記号と矢印で表現した図です。表計算ソフトの罫線でも描けますが、複数部門をまたぐ業務では「スイムレーン(横または縦のレーンで担当者・部門を区切る書式)」を使うと、誰が何をするかが一目で分かります。
基本の記号をそろえる
作図で最も大切なのは、記号の意味を関係者間でそろえることです。一般的には、角丸や楕円で「開始・終了」、長方形で「処理・作業」、ひし形で「判断・分岐」、矢印で「流れの向き」を表します。凡例を図の隅に付けておくと、読み手が迷いません。
標準記法BPMNという選択肢
描き手ごとに記号がばらつくと、図の解釈が分かれます。これを避けるための国際的な標準記法がBPMN(Business Process Model and Notation)です。BPMNは非営利の標準化団体OMG(Object Management Group)が策定し、2013年にはISO/IEC 19510:2013として国際規格になっています。BPMNは、業務を設計・管理する現場の担当者が直接使える分かりやすさと、システム実装につなげられる厳密さの両立を狙った記法です。全社で作図ルールを統一したい場合や、システム部門と業務部門が同じ図を共有したい場合に有力な選択肢となります。
粒度の決め方——細かすぎず、粗すぎず
業務可視化で最もつまずきやすいのが粒度(どこまで細かく描くか)です。細かすぎると作成・保守に手間がかかり、粗すぎると改善の手がかりが見えません。粒度は「一枚で描き切ろうとせず、階層で分ける」ことで解決します。
階層で分けて描く
- 全体像レベル:部門をまたぐ業務の大きな流れを、1業務=1ボックス程度でつかむ
- 業務レベル:一つの業務を、担当者と主要な作業ステップで描く(スイムレーンが活きる層)
- 手順レベル:特定の作業を、画面操作や入力項目まで細かく描く(マニュアル化・システム化の直前で使う)
上位の層で全体像を共有し、改善やシステム化の対象になった業務だけを下位の層で詳細化します。すべてを手順レベルで描く必要はありません。
粒度をそろえる目安
同じ一枚の図の中では、ボックスの大きさ(作業のまとまり)をそろえるのが原則です。目安として「一つのボックス=一人の担当者が、中断せずに完了できる一まとまりの作業」と定義すると、粒度がぶれにくくなります。判断の分岐は、業務の結果が大きく変わる分岐だけを描き、些末な例外は注記に逃がすと図が読みやすくなります。
可視化を「改善」につなげる
業務可視化はゴールではなく出発点です。描いた図をもとに、滞留・手戻り・重複・過剰なチェックといった課題を洗い出し、改善に接続します。改善の視点として広く使われるのが、日本能率協会コンサルティングなどが体系化する「ECRS(改善の4原則)」です。
- E=Eliminate(排除):その作業・成果物そのものをなくせないか
- C=Combine(結合):似た作業をまとめられないか、逆に分けるべきか
- R=Rearrange(交換・入替え):作業の順序・場所・担当を入れ替えられないか
- S=Simplify(簡素化):残った作業をより簡単にできないか
ECRSはE→C→R→Sの順で検討するのが定石です。排除が最も改善効果が大きく、後ろにいくほど手間が増えるためです。可視化した図の各作業に対してこの4つを問いかけると、システム化ありきではない、地に足のついた改善案が導けます。
見えないものは、改善できない。まず流れを見えるようにすることが、あらゆる業務改善の第一歩になる。
なお、法務・労務・税務が関わる業務の見直しは、制度上の要件を踏まえる必要があります。判断に迷う場合は、一般的な情報に頼りきらず、専門家への確認を挟むことをおすすめします。
この記事のまとめ
- 業務可視化は業務改善・システム導入・DXの土台となる「現状把握」であり、それ自体が目的ではない
- 進め方は「目的定義→業務棚卸し→流れの整理→フロー図化→課題抽出」の順で進めると抜け漏れが少ない
- 作図は記号の意味を関係者でそろえることが第一。全社統一には国際標準記法BPMN(ISO/IEC 19510)も選択肢になる
- 粒度は一枚で描き切らず、全体像・業務・手順の3階層で分け、改善対象だけを詳細化する
- 可視化した課題はECRS(排除・結合・交換・簡素化)の順で問い直し、改善へ接続する
よくある質問
業務可視化は何から始めればよいですか?
まず「何のために可視化するのか(改善・システム化・引き継ぎなど)」と対象範囲を決めます。次に部門・担当ごとに業務を一覧化する業務棚卸しをおこない、そのうえで業務フロー図に落とし込みます。目的を先に固定すると、描く範囲と細かさがぶれません。
業務フロー図はどこまで細かく描くべきですか?
一枚で描き切ろうとせず階層で分けるのが基本です。全体像レベルで大きな流れをつかみ、改善やシステム化の対象になった業務だけを手順レベルまで詳細化します。同じ図の中では「一人が中断せず完了できる一まとまりの作業」を1ボックスの目安にすると粒度がそろいます。
業務フロー図に決まった書き方の規格はありますか?
国際標準記法としてBPMN(Business Process Model and Notation)があります。標準化団体OMGが策定し、2013年にISO/IEC 19510:2013として国際規格になっています。全社で作図ルールを統一したい場合に有力ですが、まずは開始・処理・判断・終了の基本記号とスイムレーンから始めても十分です。
業務可視化から改善・システム導入までを一気通貫で支援します。「どこから手をつけるべきか」でお悩みの際は、当社のコンサルティング・業務改革支援のご案内をご覧ください。