AI前提のBPR|業務再設計の考え方はこう変わる

AI前提のBPR|業務再設計の考え方はこう変わる

「AIを入れたのに、思ったほど業務が楽にならない」——多くの企業がこの壁に突き当たります。原因の多くは、既存の業務フローを温存したままツールだけを足し込むことにあります。生成AIを前提に業務そのものを設計し直す。これがいま求められるBPR(業務改革)の出発点です。本記事では、公的統計と国の指針をもとに、AI前提のBPRの考え方と進め方を実務目線で整理します。

なぜ「AI前提」で業務を設計し直すのか

BPR(Business Process Re-engineering/業務改革)は、既存の業務プロセスを部分的に手直しするのではなく、目的から逆算して抜本的に組み替える取り組みを指します。従来のBPRは、紙や手作業を電子化・システム化して効率を高める発想が中心でした。生成AIの普及は、この前提を変えつつあります。

総務省「令和6年版 情報通信白書」の企業向けアンケートによると、生成AIを「活用する方針を定めている」日本企業は42.7%にとどまり、8割を超える米国・ドイツ・中国と比べて低い水準にあります。関心は高まる一方で、多くの現場では既存業務にツールを重ねる段階にとどまっているのが実情です。

AI前提のBPRとは、「今の業務にAIを足す」のではなく「AIがある前提で業務を組み直す」という発想の転換です。作業の一部を自動化するのではなく、そもそも何を人がやるべきかを問い直します。

従来型BPRとAI前提BPRは何が違うのか

違いは「置き換える対象」にあります。従来のデジタル化は、定型的な処理や記録作業を電子化することで効率を上げてきました。生成AIは、これに加えて文章の要約・翻訳、たたき台の作成、情報の整理といった、これまで人の判断が必要とされた作業の一部を補えるようになりました。つまり、自動化できる範囲が「決まった手順の処理」から「非定型の知的作業の一部」へと広がったのです。

この変化は、業務設計の前提を変えます。従来は「人がやる作業をいかに減らすか」を考えれば十分でしたが、これからは「どの作業をAIに任せ、どの判断を人が担うか」という配分を、業務ごとに設計し直す必要があります。ツールの導入そのものよりも、この配分の設計こそがAI前提BPRの核心です。

「効率化」から「役割の再配分」へ

経済産業省が2024年6月に公表した「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」は、生成AIによって知識や技術が補われる分、これからの人材にはリーダーシップや批判的思考といった、より創造性の高い役割が重要になると指摘しています。作業を減らすだけでなく、人が担う仕事の中身を上流にずらすことがAI前提BPRの狙いです。

部分最適から業務全体の再設計へ

特定の作業だけを速くしても、前後の工程で人待ちや手戻りが発生すれば、全体の効果は限定的です。だからこそ、個々の作業の自動化にとどめず、工程の切れ目そのものを設計し直す視点が欠かせません。生成AIを起点に、業務の区切り方そのものを問い直すことが求められます。

AI前提BPRの進め方(5ステップ)

抜本的な再設計といっても、いきなり全社を変える必要はありません。対象業務を絞り、小さく検証しながら広げるのが現実的です。

  1. 業務の棚卸しと可視化:対象業務の工程を洗い出し、時間のかかる作業・手戻りの多い箇所を特定する
  2. 目的の再確認:その業務は何のためにあるのかを問い直し、なくせる工程・統合できる工程を見極める
  3. AIが担える作業の切り分け:要約・下書き・分類・情報整理など、生成AIが補える作業と、人が判断すべき作業を分ける
  4. 試行と検証:小さな範囲で試し、品質・時間・使い勝手を確認する。うまくいかなければ工程の分け方から見直す
  5. 定着とルール化:チェック体制や利用ルールを整え、成果が出た型を横展開する
重要なのは、AIに任せた作業の出力を人が確認する工程をあらかじめ設計に組み込むことです。生成AIの出力は誤りを含むことがあり、確認の仕組みなしに任せきると品質リスクにつながります。

つまずきやすい落とし穴

総務省「令和6年版 情報通信白書」は、生成AI導入における懸念事項として「適切な利用方法が分からない」「セキュリティリスク」「導入・運用コスト」などを挙げています。実務では、次の点でつまずく企業が少なくありません。

いずれも、技術の問題というより設計とルールの問題です。どの作業を誰がどう確認するか、どの情報は入力してよいかを、業務設計とセットで決めておくことが重要になります。

中小・中堅企業こそ「小さく再設計」から

中小企業庁「2024年版 中小企業白書」によれば、中小企業のデジタル化の取組段階は着実に進んでおり、「未着手」の段階にある企業の割合は2019年の61.3%から2024年には30.8%へと減少し、電子化の段階にある企業は9.5%から26.9%へと増えています。デジタル化の土台は広がりつつあります。

一方で、生成AIの活用方針の策定は大企業に比べて中小企業で遅れがちです。だからこそ、全社改革を構えるのではなく、時間のかかっている一つの業務を選び、目的から設計し直す小さな一歩が有効です。効果を確かめてから広げれば、投資も学習も無理なく進みます。

AIは「作業を速くする道具」であると同時に、「業務の形を問い直すきっかけ」でもあります。

まとめ:ツールより先に、業務の設計を

AI前提のBPRは、最新ツールを導入することではなく、目的から業務を組み直すことです。何のための業務かを問い直し、人とAIの役割を配分し、確認の仕組みを設計に織り込む。この順序を守れば、生成AIは単なる効率化ツールを超えて、業務の質そのものを高める力になります。まずは一つの業務から、小さく再設計を始めてみてください。

この記事のまとめ

  • AI前提のBPRとは、既存業務にツールを足すのではなく、AIがある前提で業務そのものを組み直すこと
  • 生成AIへの関心は高まる一方、活用方針を定めている日本企業は42.7%(令和6年版情報通信白書)にとどまり、焦点は「効率化」から人とAIの「役割の再配分」へ移りつつある
  • 進め方は、可視化→目的の再確認→作業の切り分け→試行と検証→定着の5ステップで小さく始める
  • AIの出力を人が確認する工程と、情報の取り扱いルールを業務設計とセットで決めることが品質と安全の鍵

よくある質問

AI前提のBPRと、従来のBPR・デジタル化は何が違うのですか?

従来は紙や手作業の電子化・システム化による効率向上が中心でした。AI前提のBPRは、生成AIがある前提で「そもそも何を人がやるべきか」を問い直し、人とAIの役割を配分し直す点が異なります。作業の自動化にとどまらず、業務の設計そのものを見直します。

小さな会社でも取り組めますか?何から始めればよいですか?

はい。全社改革ではなく、時間のかかっている業務を一つ選び、工程を可視化して目的から見直すことから始めるのが現実的です。生成AIが補える作業(要約・下書き・整理など)と人が判断すべき作業を分け、小さく試して効果を確かめてから広げましょう。

生成AIを業務に使う際、品質やセキュリティが心配です。

AIの出力は誤りを含むことがあるため、人が確認する工程を設計にあらかじめ組み込むことが重要です。また、どの情報を入力してよいかの取り扱いルールを事前に定めておくことで、情報漏えいのリスクを抑えられます。技術より設計とルールの問題として捉えることが大切です。

業務プロセスの見直しや、AIを前提とした業務再設計の進め方でお悩みの際は、ノアブリッジのコンサルティング・組織開発の支援をご検討ください。現状の可視化から一緒に整理します。

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参考文献

  1. 総務省「令和6年版 情報通信白書」(企業向けアンケート・生成AIの活用状況)
  2. 中小企業庁「2024年版 中小企業白書」第7節 DX(デジタル・トランスフォーメーション)
  3. 経済産業省「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」(令和6年6月)
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