経営会議を意思決定の場に変える:会議体設計の実践

経営会議を意思決定の場に変える:会議体設計の実践

「経営会議に時間をかけているのに、肝心のことが決まらない」——多くの経営者・経営企画部門が抱える悩みです。議論が報告の読み合わせに終わり、決定は次回に持ち越される。原因は司会者の力量ではなく、会議体そのものの設計にあることが少なくありません。本記事では、経営会議を「意思決定の場」に変えるための会議体設計の考え方と、明日から着手できる実務手順を整理します。

なぜ経営会議は「報告会」になってしまうのか

経営会議が決められない場になる背景には、共通したパターンがあります。議題が「報告」と「協議」と「決裁」の区別なく並び、資料の説明で時間の大半が費やされ、論点にたどり着く前に時間切れになる——という流れです。これは個々の参加者の姿勢の問題というより、会議の器(会議体)の設計に起因します。

会議に費やす時間そのものも決して小さくありません。パーソル総合研究所と中原淳氏による長時間労働の調査(2017〜2018年、正社員6,000人対象)では、部長級の社内会議・打ち合わせ時間は年間434時間以上、従業員1万人を超える企業の上司層では年間630時間に達すると報告されています。同調査は、無駄な会議による損失が従業員1万人規模の企業で年間約15億円に及ぶ可能性を指摘しています。

会議が決まらないのは「進め方」ではなく「設計」の問題であることが多い。 司会テクニックを磨く前に、会議体の目的と意思決定権を設計し直す。

海外の調査も同じ傾向を示します。米ハーバード・ビジネス・レビューが上級管理職182名に行った調査(2017年)では、71%が「会議は非生産的で非効率だ」と答え、65%が「会議のせいで自分の仕事が進まない」と回答しています。会議の非効率は、特定の企業や国に限った話ではありません。

意思決定の場に変える3つの設計原則

会議体設計とは、「どの意思決定を、どの会議で、誰が、どのように決めるか」をあらかじめ定義することです。次の3つの原則を押さえると、会議は格段に決まりやすくなります。

原則1:会議体を「目的」で切り分ける

一つの会議にすべてを詰め込むと、報告の海に議論が埋もれます。会議体を目的別に分けるのが第一歩です。たとえば、業績のモニタリングと軌道修正を行う「業績レビュー」、投資や重要施策の可否を決める「意思決定会議」、中長期の方向性を練る「戦略検討会」を分離します。それぞれで求められるアウトプットも参加者も異なるためです。

原則2:意思決定権を事前に定義する

「誰が決めるのか」が曖昧なまま議論を始めると、全員が意見を出すだけで結論に至りません。意思決定の役割を事前に明確にする代表的なフレームワークが、ベイン・アンド・カンパニーが提唱する『RAPID®』です。RAPIDは意思決定に関わる5つの役割の頭文字で、推奨(Recommend)、同意(Agree)、実行(Perform)、情報提供(Input)、決定(Decide)を指します。

とりわけ重要なのが「決定(D)」を一人に集約する点です。ベインは、Dを単一の個人に置くことで意思決定の責任の所在(single-point accountability)が明確になると説明しています。合議による全員一致を目指すのではなく、「誰の意見を聞き、最後は誰が決めるか」を役割として切り分ける発想です。

良い意思決定は、全員の合意形成ではなく「決める人・関わる人の役割の明確さ」から生まれる。 議題ごとに『決定権者は誰か』を先に決めておく。

原則3:アジェンダを「議題」ではなく「論点」で書く

「〇〇の件について」という議題の書き方では、何を決める場なのかが伝わりません。「新規拠点をA案とB案のどちらで進めるか」のように、決めるべき論点を疑問文で書くと、議論の焦点が定まります。あわせて、その場で期待するアウトプット(決定/方向性の合意/継続検討のいずれか)を明記します。

会議前・会議中・会議後の運用設計

設計した会議体を機能させるには、会議の前後を含めた運用が欠かせません。会議は「当日の90分」だけで完結するものではないという発想が重要です。

会議前:資料と論点を先に配る

  1. アジェンダと資料を事前(目安として前営業日まで)に配布し、参加者に読んでくることを求める
  2. 各議題に「論点・決定権者・想定アウトプット・所要時間」を明記する
  3. 当日の資料説明は要点のみとし、読み合わせに時間を使わない

会議中:議論を論点に集中させる

ファシリテーターは、議論が論点から逸れたときに引き戻す役割を担います。派生した検討事項は「別途検討」として切り出し、その場で無理に決めようとしないことが、かえって決めるべきことを決める助けになります。決定できない場合も、「何が揃えば決められるのか」「次にいつ決めるのか」を明確にして終えます。

会議後:決定事項と担当・期限を記録する

会議の価値は、決めたことが実行されて初めて生まれます。決定事項(Decision)、担当者(Who)、期限(When)をセットで記録し、次回会議の冒頭で前回の実行状況を確認する仕組みを組み込みます。この「決めたことのフォロー」を欠くと、会議は毎回ふりだしに戻ります。

会議を形骸化させないための仕組み

設計と運用を整えても、時間が経つと会議は再び形骸化しがちです。定期的に会議そのものを点検する仕組みを持つことが、決める会議を維持する鍵になります。

米マッキンゼーが1,200名超のマネジャーを対象に行った調査(2019年)では、回答者の61%が「意思決定に費やす時間の少なくとも半分は非効率だ」と答えています。一方で同調査は、意思決定が速い組織は、その決定が高品質である確率が約2倍(1.98倍)高いという相関も示しています。スピードと質はトレードオフではなく、設計次第で両立しうるということです。

会議体設計は一度で完成するものではなく、事業の変化に合わせて更新し続ける対象です。KPIや中期経営計画と接続し、経営会議を「戦略を実行につなぐ結節点」として位置づけ直すことが、意思決定の質とスピードを高める土台になります。

会議を変えるとは、司会を上手にすることではなく、「何を・誰が・どう決めるか」を設計し直すことである。

この記事のまとめ

  • 経営会議が決まらない原因は司会の巧拙ではなく、会議体の設計にあることが多い
  • 会議体は「報告・意思決定・戦略検討」など目的別に切り分け、決める議題に集中させる
  • RAPIDなどで意思決定権を事前に定義し、最終決定者(D)を一人に集約する
  • アジェンダは論点を疑問文で書き、会議前・中・後の運用と決定事項の記録・フォローをセットで設計する

よくある質問

経営会議と他の会議は分けるべきですか?

目的が異なるなら分けることを推奨します。業績のモニタリング、重要施策の意思決定、中長期の戦略検討では、求められるアウトプットも適切な参加者も異なります。すべてを一つの会議に詰め込むと報告に時間を取られ、意思決定が後回しになりがちです。

RAPIDのようなフレームワークは中小企業にも必要ですか?

厳密に運用しなくても、考え方は有効です。参加人数が少ない場合でも、議題ごとに「誰の意見を聞き、最後は誰が決めるのか」を事前に決めておくだけで、議論が意見交換で終わらず結論に向かいやすくなります。まずは重要な意思決定から役割を明確にすると始めやすいでしょう。

会議で決められないときはどうすればよいですか?

その場で無理に決めず、「何が揃えば決められるのか」「次にいつ決めるのか」を明確にして終えるのが有効です。不足している情報や検討事項を洗い出し、担当と期限を決めて宿題化します。決められない状態を放置せず、次の決定に向けた条件を具体化することが重要です。

会議体設計を含む経営の仕組みづくりでお困りの際は、株式会社ノアブリッジのコンサルティング・組織開発支援をご検討ください。現状の会議運営の課題整理からご相談いただけます。

関連記事

KPIツリーの設計方法:目標を現場の行動につなげる分解の技術 中期経営計画の作り方|策定プロセスと巻き込みの設計 属人化解消の実践ステップ:「あの人しかできない」をなくす

参考文献

  1. パーソル総合研究所「『ムダな会議』による企業の損失は年間15億円」
  2. McKinsey & Company「Decision making in the age of urgency」(2019年)
  3. Harvard Business Review「Stop the Meeting Madness」(2017年)
  4. Bain & Company「RAPID® Decision Making Framework」
本記事は株式会社ノアブリッジが運営・編集しています。掲載内容は公開時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の状況に応じた判断は専門家にご相談ください。

組織づくり・業務改革のご相談、承ります。

お問い合わせ